改訂新版 世界大百科事典 「エボシミジンコ」の意味・わかりやすい解説
エボシミジンコ
海産のミジンコ類中の一つ,オオメミジンコ科エボシミジンコ属Evadneの甲殻類の総称。沿岸のプランクトンとしてふつうに出現する。体長0.5~1mmくらい。一見淡水産のミジンコに似ているが,背甲は葉状の肢を包まず,体の背側に垂れ下がっており,育房としての役を果たすだけである。日本沿岸では種類と生息地の海水温度によっても異なるが,早春より秋にかけて定期的に出現する。初めのうちは雌ばかり現れて,単為生殖によって雌は育房内に夏卵を産む。卵はその中で発育して自由遊泳の幼生となり,育房を出て雌ばかりで繁殖を繰り返す。環境が不適当となり出現期の終りに近づくと,単為生殖によって雌と雄が生じ,有性生殖が行われて,育房内に受精卵である耐久卵をもつ雌が増える。耐久卵はやがて雌の体を離れて海底に沈み,泥底に埋もれて不適当な時期を過ごし,次の出現期には,その耐久卵から雌が孵化(ふか)してくる。そして出現期の終りに近づくまでは,雌だけで繁殖が続けられる。日本沿岸には,ノルドマンエボシミジンコE.nordmanni,トゲエボシミジンコE.spinifera,トゲナシエボシミジンコE.tergestinaなどが見られる。
執筆者:蒲生 重男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報