日本大百科全書(ニッポニカ) 「エリトラ海案内記」の意味・わかりやすい解説
エリトラ海案内記
えりとらかいあんないき
Periplus Maris Erythraei
紀元1世紀、ローマ帝政初期に書かれた東西貿易路の航海案内記。66章からなる。2世紀の歴史・地理学者アリアヌスの著とされたこともあるが、エジプト在住のギリシア系の商人の手になる書で、著者名は不明。「エリトラ海」とは「紅海」のことだが、この本の書かれたころ紅海は「アラビア湾」とよばれ、エリトラ海は紅海からペルシア湾、インド洋までを含めたものであった。紅海、アフリカ東岸、ペルシア湾、インド、さらにマレー、中国にまで記述は及んでいる。著者自身は通商のために航海しているが、紅海、アフリカ東岸、ペルシア湾(湾口近くのみ)、インド西岸以外は実際には行っていないらしい。ギリシア系の人による季節風ヒッパロスを利用しての紅海からインドへの南海貿易路は、海上のいわゆる「絹の道」で、この道による香料、生糸、象牙(ぞうげ)その他の貿易は、ローマ帝政初期に栄えた。そのためこのような案内記が必要とされた。
[三浦一郎]
『村川堅太郎訳『エリュトラ海案内記』(1946・生活社)』