朝日日本歴史人物事典 「おあん」の解説
おあん
戦国から江戸時代初期にかけての武家の女性。山田去暦の娘。雨森氏に嫁す。父去暦は石田三成に仕えており,慶長5(1600)年の関ケ原の戦のころ,石田配下として佐和山城(一説に大垣城)に籠城,この時おあん一家は稀有の体験をする。徳川家康方の軍勢から石火矢が打ち込まれるなか,母や城内の女性たちと天守で鉄砲玉を作り,また味方が取った首を天守に札を付けて並べておき,毎夜これにおはぐろをつけたという。明日は落城という日,父母,家来と共に梯子をかけて城を脱出。逃亡の途中,母が女児を出産し,田の水で産湯を使ったとおあんは回想している。その後父は土佐の親類のもとに下り,おあんはそこで,やはり山内氏に仕えていた近江出身の雨森氏に嫁すことになった。晩年は甥に養われたという。父去暦は知行300石取りだったと述べていることから,生活は中級武士クラスのそれであったとみられる。その体験談『おあん物語』は貴重な史料的価値を持っている。
(田端泰子)
出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報