日本大百科全書(ニッポニカ) 「キリストに倣いて」の意味・わかりやすい解説
キリストに倣いて
きりすとにならいて
De Imitatione Christi
キリスト教修徳文学でもっともよく知られた古典の一つ。脱世俗的な特徴がきわめて強い。中世後期の信心一般を理解させてくれるばかりでなく、今日までもキリスト教的修業、信心への手引として、とくに修道者などに広く読まれている。非常に多くの版があり、50か国語以上に訳された。邦語訳も数種類ある。著者問題に関し長年論議されたが、現在一般にトマス・ア・ケンピスで疑いはないとされている。
全体は4巻からなり、第1巻は1410年に始められ、全巻完成までに約30年かかったといわれている。第1巻では霊的生活への勧め、世俗的傾向からの自己解放や神への回心の準備の方法、第2巻では神への回心を促進させる呼びかけと勧め、第3巻では真の内的慰め、第4巻では強い信仰をもった聖体拝領への勧め、などがそれぞれ取り扱われている。
[大谷啓治]
『大沢章・呉茂一訳『キリストにならいて』(岩波文庫)』▽『由木康訳『キリストに倣いて(イミタチオ・クリスチー)』(角川文庫)』