改訂新版 世界大百科事典 「クチジロジカ」の意味・わかりやすい解説
クチジロジカ
Thorold's deer
white-lipped deer
shou
Cervus albirostris
ニホンジカに似るが大きく,下あごと吻端(ふんたん)が白い偶蹄目シカ科の哺乳類。チベット東部,四川,青海の標高3500~5000mの高地に分布する。体長1.9~2m,尾長10~12cm,体高1.2~1.3m,体重130~140kg。顔が短くて耳介が細長く,腰が肩よりやや高く,ひづめは幅広くウシに似る。毛は密で夏毛は短く灰褐色,冬毛は長く黒褐色,夏冬とも胴に白い斑点がない。しりの淡色部は黄褐色。角は大きく扁平,枝はふつう5本でその出方はニホンジカに似るが,下から3番目の枝がもっとも長く,幹はそこから急に後ろに曲がる。亜高山針葉樹林と高山草原にふつう2~12頭,ときに40頭の群れですみ,イネ科の草や高山植物を食べる。妊娠期間9~10ヵ月。中国以外の動物園では,スリランカを除き飼われたことがない珍種で,生態はよく知られていない。薬用とする角を目的に乱獲されてまれになり,絶滅が心配されている。
執筆者:今泉 吉典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報