中国南西部の省。略称は川または蜀(しょく)。西はチベット自治区、北は青海(せいかい/チンハイ)、甘粛(かんしゅく/カンスー)、陝西(せんせい/シャンシー)省、東は重慶(じゅうけい/チョンチン)市、南は貴州(きしゅう/コイチョウ)、雲南(うんなん/ユンナン)省と接する。面積48万5000平方キロメートル、人口8407万4705(2000)。漢族、イ族、チベット族、ミャオ族、回族、チャン族などの諸民族が居住する。3自治州、18地区級市、14県級市、123県、3自治県(2001現在)を含み、省都は成都(せいと/チョントゥー)。1997年に重慶市が政府直轄市となり、四川省から分離した。
秦(しん)代に中国王朝の支配が始まり、漢代は蜀、巴(は)などの諸郡、三国時代は蜀の本拠地が置かれ、宋(そう)代は益州(えきしゅう)路など4路に分割して四川路と称した。元(げん)代に四川行省が設けられて後代に受け継がれたが、省名は蜀が4河川を境界にしたこと、あるいは宋の四川路によるという。1914年西部の高原に川辺特別区を設置、28年西康省としたが、解放後の55年これを廃止し、金沙江(きんさこう/チンシャーチヤン)以東を四川省に編入した。
地形は西の川西高原と東の四川盆地に大別されるが、前者は青蔵(せいぞう)高原南東部を占め、高峻(こうしゅん)な山脈と深い峡谷が東西に並び、東部にコンガ山(7556メートル)がそびえ、地震多発地帯でもある。後者には、北西に成都平原、中央に丘陵地帯、東に山脈と河谷がみられる。省の西境を南流し、雲南省から省南部へ入って北東流する金沙江は、宜賓(ぎひん/イーピン)から長江(ちょうこう/チャンチヤン)(揚子江(ようすこう/ヤンツーチヤン))とよばれ、これに雅礱江(がろうこう/ヤーロンチヤン)、岷江(びんこう/ミンチヤン)、沱江(だこう/トゥオチヤン)、嘉陵江(かりょうこう/チャリンチヤン)などが合流する。四川盆地の気候は冬暖かくて夏暑く、雨量も多くて植物生育期間は長い。また、秋から翌春には霧が多いが、一方の川西高原は、1月は零下3~零下9℃と寒く、7月も15℃前後、雨量も約500ミリメートルである。ただ南部の河谷は冬暖かくて雨量も多く、亜熱帯作物が生育する。土地が肥沃(ひよく)で灌漑(かんがい)の発達している豊かな成都平原は、古来「天府之国」といわれたが、おもな農畜林産物としては、省別生産量最大の米のほか、小麦、サツマイモ、トウモロコシ、サトウキビ、菜種、茶、タバコなどがあり、養蚕も有名である。畜産物では豚毛、皮革の生産が重要であり、さらに蓄積量約7億立方メートルの木材のほか、桐油(とうゆ)、生漆(きうるし)、白蜡(はくしょ)、黄連(おうれん)、川芎(せんきゅう)などの林産物や薬草も全国に知られている。地下資源は南西や南東部の石炭、鉄鉱石、中部の燐(りん)鉱石、西部の石綿、銅、金などと豊富である。工業も成都、宜賓、渡口(とこう/トゥーコウ)(現攀枝花(はんしか/パンジホワ)市)そのほかで、重化学工業や軽工業の諸分野、石炭、天然ガス部門などが解放後大きく発展した。また、蜀錦(しょくきん)、蜀綉(しょくしゅう)、巴緞(はどん)、漆器、竹製品などの伝統手工芸品もある。昔は「蜀道難」とされた交通も、解放後、成都と重慶、陝西省宝鶏(ほうけい/パオチー)、雲南省昆明(こんめい/クンミン)、重慶と貴州省貴陽(きよう/コイヤン)、湖北(こほく/フーペイ)省襄樊(じょうはん/シヤンハン)を結ぶ鉄道、成都からチベットのラサ、甘粛省蘭州(らんしゅう/ランチョウ)などへの自動車路が開かれ、また長江を中心とする全国一の河川交通、成都から各方面への航空路などその発展は目覚ましい。おもな都市としては、古都である省都成都、「塩都」自貢(じこう/ツーコン)、工業都市綿陽(めんよう/ミエンヤン)、攀枝花などがあげられる。
名勝、史跡も多く、名山峨眉山(がびさん/オーメイシャン)および青城山、成都西郊の杜甫(とほ)堂、広元(こうげん/コワンユワン)の千仏崖(がい)、楽山大仏などがある。また、平武県王朗など13の自然保護区では、パンダ、キンシコウ(金糸猴)などの重点的保護がなされている。
[小野菊雄]
中国では40あまりの世界遺産が存在するが、この四川省では「九寨溝(きゅうさいこう/チウチャイゴウ)の渓谷の景観と歴史地域」(1992年、自然遺産)、「黄龍(こうりゅう/ホワンロン)の景観と歴史地域」(1992年、自然遺産)、「峨眉山と楽山大仏」(1996年、複合遺産)、「青城山(せいじょうさん/チンチエンシャン)と都江堰(とこうえん/トゥーチャンイエン)水利(灌漑)施設」(2000年、文化遺産)、「四川省のジャイアントパンダ保護区群」(2006年、自然遺産)がユネスコ(国連教育科学文化機関)により世界遺産に登録されている。
[編集部]
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