…これは運動量が力と逆向きで,したがって速度と逆向きであることを意味している。正エネルギーの電子もポテンシャルの高い壁に出会うと負エネルギーのふるまいに変わることになる(クラインのパラドックス)。また水素原子は電子が電磁場と相互作用してたちまち負エネルギーの準位におちてしまうから安定に存在することができないことになる。…
…また水素原子に用いた場合,そのスペクトルの微細構造を説明し,さらに自由電子に対するコンプトン効果による電磁波の散乱断面積を与えるクライン=仁科の式へ応用されるなどみごとな成功をおさめた。しかし,一方では(1)の方程式には負のエネルギーをもつ解があり,電子が負のエネルギー状態に落ち込む可能性があるという不つごうを生じた(クラインのパラドックス)。これは最初ディラックの理論の欠陥と考えられていたが,ディラックは,真空とはすべての負エネルギー準位に電子が充満している状態であるとし,このうち一つの状態の電子にエネルギーが与えられて正エネルギー状態へ移り空孔ができると,その空孔は電子と逆に正の電荷をもち,正のエネルギーの粒子として観測されるという空孔理論を提唱して説明を与えた。…
…このために,古典的には入射波より反射波のエネルギーが大きくなる超放射現象が起こる。量子論的には,クラインのパラドックス(ある種の強いポテンシャルのもとでは,正エネルギーの電子が負エネルギー状態へ遷移しうるという理論)と似た理由によって粒子の自然放出が起こり,回転エネルギーが失われる。シュワルツシルトブラックホールに対しては,不確定性原理に起因して光子の自発的放出がプランク分布で起こる。…
※「クラインのパラドックス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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