ポテンシャル(読み)ぽてんしゃる(英語表記)potential

翻訳|potential

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポテンシャル」の意味・わかりやすい解説

ポテンシャル
ぽてんしゃる
potential

力の場の各点に位置のエネルギーが定まる場合に、それをポテンシャルまたはポテンシャル・エネルギーとよぶ。「ポテンシャル」は潜在的の意。運動の勢いとして顕在する運動エネルギーに対していう。両者の和が一定で、エネルギーは顕在したり潜在したり互いに移り変わることができるのは、投げたボールやジェット・コースターなどの例にみられるとおりである。

[江沢 洋]

力の場とポテンシャル

質点の受ける力が空間の場所により定まっているとき、その空間を力の場という(たとえば、太陽の周りの重力の場、ただし、太陽は空間に静止しているものとする)。力の場に基準点Aをとり、そこに静止している質量mの質点を静かに(速度、加速度がゼロ、したがって無限の時間をかけて)別の点Pまで運ぶ仕事量W(A-Γ-P)が途中の道筋ΓによらずPの位置P(x,y,z)のみで定まる場合に限り
  W(A-Γ-P)=W(P)=W(x,y,z)
なる関数をこの力の場における質点mのポテンシャルとよび、この種の場を保存力の場という。Pまで運ぶ仕事が途中の道筋によって違うということがおこるのは、たとえば力の場が渦を巻いている場合である(図A)。

[江沢 洋]

ポテンシャルの場

保存力の場における質点mのポテンシャルは空間の各点で値(スカラー)が定まっているので、これも場である。座標の原点Oに固定された点電荷Qがあり、質点mも電荷qをもっているとし、二つの電荷は同符号とすれば、質点mにはOを中心とし逆二乗の法則に従う斥力が働く。この力は保存力であって、ポテンシャルの場W(x,y,z)をもつことが証明される。質点mに働く力は斥力で、点Oに近づくほど強くなるから、mをOの近くまで運ぼうとすれば、それだけ大きな仕事をしなければならない。それゆえz=0の面上に限定してW(x,y,0)の値をグラフにすると図Bの(1)のような山の形(ポテンシャルの山)ができる。これがポテンシャルの場の一つの表し方である。この山はまた、等高線(等ポテンシャル線とよぶ)をxy面に描くことにしても表現できる(z=0に限定しなければ等ポテンシャル「面」で表現することになる)。ポテンシャルの山は、もとの力の場も表現している。実際、質点mを等ポテンシャル線に沿って運ぶのに仕事は不要だから、図Bの(2)の点Pで質点mに働く力は等ポテンシャル線に沿う成分をもたないことが、まずわかる。力は等ポテンシャル線に垂直な成分をもつのみだから、その成分をf(P)と書いてみる。質点mを静かに山の上方の点P'まで引き上げるには、質点に-f(P)の力を加えるので、-f(P)・PP'だけの仕事をすることになる。これがポテンシャルの増加
  W(P')-W(P)
になるわけだから、

が導かれる(正確にはP'→Pの極限をとる)。つまり力は、ポテンシャルの山からその勾配(こうばい)として求められる。このことは、いま考えた電荷の間の力に限らず一般にいえる。

[江沢 洋]

『戸田盛和著『物理入門コース1 力学』(1982・岩波書店)』『原島鮮著『質点の力学』改訂版(1984・裳華房)』『S・ガシオロウィッツ著、林武美・北門新作訳『量子力学1』(1998・丸善)』『江沢洋著『量子力学1、2』(2002・裳華房)』『江沢洋著『力学――高校生・大学生のために』(2005・日本評論社)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ポテンシャル」の意味・わかりやすい解説

ポテンシャル
potential

位置エネルギーは保存力場内にある質点の仕事をする能力を表わすが,この能力を保存力場そのものが潜在的にもつと考えるときに,位置エネルギーを力場のポテンシャルという。ポテンシャル U(xyz) はスカラー量であって,保存力 F の成分は Fx=-∂U/∂xFy=-∂U/∂yFz=-∂U/∂z で与えられる。この3式の和を F=-gradU と書き,右辺U の負の勾配という。静電気力は保存力であって,静電ポテンシャルは電位とも呼ばれる。

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