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空孔理論 くうこうりろんhole theory

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

空孔理論
くうこうりろん
hole theory

ディラック方程式の解には,本来は正であるべき運動エネルギーが負になる負エネルギー状態が含まれているが,これを避けるため 1930年に P.ディラックが提案した理論。真空は,すべての負エネルギー状態が通常の電子によって占められている状態であると考え,負エネルギーの電子が正エネルギー状態に移ったあとに残る空孔は,見かけ上,正の電荷をもった電子のようにふるまうものと解釈した。このような空孔は,一般に反粒子というが,特に電子の場合は陽電子という。陽電子は 32年に C.アンダーソンによる霧箱の実験によって発見され,ディラックの空孔理論の正しさが証明された。場の理論では,空孔を陽電子と解釈し直すことによって,負エネルギー状態の概念は不要になる。

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百科事典マイペディアの解説

空孔理論【くうこうりろん】

1928年ディラック量子力学特殊相対性理論の要求をみたす電子の波動方程式波動力学)を提出したが,この式はエネルギーが正と負の二つの解をもつ。この負エネルギーの困難を避けるため彼は,すべての負エネルギー状態が電子によってみたされている状態が真空で,外からエネルギーを与えられるとこの電子が正エネルギー状態にとび上がって普通の電子として観測されるようになり,他方,負エネルギー状態にあいた空孔は電子の反粒子すなわち陽電子として観測されると考えた。

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世界大百科事典 第2版の解説

くうこうりろん【空孔理論 hole theory】

電子の相対論的波動方程式はエネルギーが負の解をもつが,その解が引き起こす困難を避けるために,P.A.M.ディラックによって提出された理論を空孔理論という。ディラックは1928年に相対論的共変の要請を満たす波動方程式(ディラック方程式)を発見した。これはスピン1/2の粒子を記述するので電子の基礎方程式とみなせるかに思われたが,エネルギーが負となる解をもつ点が問題であった。自由電子の場合,運動量がp,エネルギーがとなる解がある(cは光速度,m0は電子の質量)。

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世界大百科事典内の空孔理論の言及

【ディラック方程式】より

…しかし,一方では(1)の方程式には負のエネルギーをもつ解があり,電子が負のエネルギー状態に落ち込む可能性があるという不つごうを生じた(クラインのパラドックス)。これは最初ディラックの理論の欠陥と考えられていたが,ディラックは,真空とはすべての負エネルギー準位に電子が充満している状態であるとし,このうち一つの状態の電子にエネルギーが与えられて正エネルギー状態へ移り空孔ができると,その空孔は電子と逆に正の電荷をもち,正のエネルギーの粒子として観測されるという空孔理論を提唱して説明を与えた。彼は初め空孔を陽子と考えたが,32年に陽電子が発見され,空孔はこれであることがわかった。…

※「空孔理論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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