日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
クンチャーン・クンペーン物語
くんちゃーんくんぺーんものがたり
Khunchaang Khunphaen
タイの古典文学中もっとも親しまれている長編物語の一つ。中部のスパンブリー地方に伝わる民話を、セーパーとよぶ六~九言律の詩形式にしたもの。この物語の詩文はアユタヤ時代(1350~1767)に完成していたといわれるが、アユタヤ王朝の壊滅とともに焼失。19世紀になってラーマ2世(在位1809~24)がスントーン・プーその他の詩人に命じて分担執筆させ、国王自身も加わり共同制作したものである。
物語は、アユタヤ王朝のラーマティボディ2世の時代(在位1491~1529)を背景に、醜男(ぶおとこ)だが心優しい金持ちのクンチャーンと、貧乏だが美男で勇敢な武将クンペーンとの、幼なじみの美女ワントーンをめぐる確執が大筋で、当時の風俗習慣をよく伝えている。拍子木をたたき、音楽の伴奏を加えるなどして詠唱のように語る、一種の恋愛説話といえよう。
[岩城雄次郎]