音楽において主要なパートを支持するための背景を意味する。伴奏の目的は,ある楽曲の主要部分を強調することにあり,たとえばピアノ音楽において,左手で奏される和音の伴奏は,右手で奏される旋律を支えて明確にし,ピアノやオーケストラの伴奏が,ソロの声楽家や器楽奏者の主要な部分を浮彫にする。日本の音楽では〈地〉といわれることが多い。西洋中世の単旋律の世俗音楽においては,主要旋律を他の楽器で重複して音色を豊かにするという方法がとられた。ルネサンス時代のポリフォニー音楽においては,すべての声部が平等の重要性をもっていたため,伴奏の役割はほとんどなかったが,バロック時代のホモフォニー音楽の誕生とともに,和音による伴奏の側面に光があてられるようになった。バロック時代以降のオペラの発展も,ソロのアリアに対する伴奏の役割の多様化を引き起こした。ロマン派の歌曲のピアノ伴奏は,歌詞の内容を音楽的に注釈し拡大するという方向に向かった。20世紀に入ってからの歌曲やオペラの伴奏は,主要声部の補助的手段というよりも,主要声部と一体になって全体を形成している。
→地
執筆者:船山 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
楽曲の主要な声部を旋律的、和声的に支え、補足する声部、またはその声部の演奏。もっとも古い形態は楽器による歌唱の伴奏であるが、楽曲構成上からは、主要旋律を楽器で重複して強調するものと、主要旋律から独立した対照的な性格のものとがある。
伴奏が重要な役割を得るのは、17世紀初頭にホモフォニー様式が発生し、リュートとともにチェンバロなどの鍵盤(けんばん)楽器が伴奏に使われるようになってからである。バロック時代の通奏低音による伴奏には、元来の和声的な支えから徐々に発展した旋律の重複や独立性への傾向もみられる。そして18世紀に表現力に富むピアノが登場すると、伴奏声部の独立性はいっそう明確になり、さらにシューベルトは歌曲の伴奏部に独自の表現力を与えた。
邦楽にもさまざまな伴奏があり、舞踊の伴奏は「地(じ)」、劇の伴奏は「下座(げざ)」という。歌に伴う楽器の声部はそれぞれの楽器名でよばれるのが普通で、たとえば浄瑠璃(じょうるり)(義太夫(ぎだゆう)節、清元(きよもと)節、常磐津(ときわず)など)の伴奏は「三味線」(または「手」)とよぶ。
[寺本まり子]
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