化学辞典 第2版 「サプレッサー」の解説
サプレッサー
サプレッサー
suppressor
ある突然変異による表現型が,それと違った座で起こった第二の突然変異によって,もとの表現型に戻ったとき,第一の突然変異が第二の突然変異によって,サプレッション(抑制)を受けたといい,この第二の突然変異をサプレッサー突然変異とよぶ.そしてサプレッサー突然変異によってつくられ,サプレッションの作用をもつ物質をサプレッサーとよぶ.サプレッションの機構には種々のものがあるが,そのうちもっともよく解明されているものにナンセンス突然変異のサプレッションがある.あるタンパク質の構造遺伝子のある座が突然変異を起こし,そこがUAG,UAAなどのナンセンスコドンにかわったとすると,通常はそのコドンに対応するアミノ酸がないので,そのタンパク質はつくられなくなる.これをナンセンス突然変異というが,このとき,tRNAが突然変異を起こし,タンパク質合成の読み終わりを示すストップコドン(UAG,UAA,UGA)に,このサプレッサーtRNAが対応できるようになると,もとの活性のあるタンパク質がふたたび合成されるようになる.サプレッサーtRNAの例としては,大腸菌,チロシンtRNAの例がよく研究されている.このほか,やはりtRNAが突然変異を起こして,いままでと違ったアミノ酸に対応するようになるために起こるミスセンスサプレッサーの例もある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報