改訂新版 世界大百科事典 「サンドイッチ化合物」の意味・わかりやすい解説
サンドイッチ化合物 (サンドイッチかごうぶつ)
sandwich compound
平面状の多原子分子あるいはイオンが2枚平行に並び,その間に金属原子を挟んでちょうどサンドイッチのような形になっている化合物。平面状分子ないしはイオンとしては,シクロペンタジエニル,インデニル,ベンゼン,フタロシアニンなどがその典型的なものである。たとえばその代表的なものであるビス(シクロペンタジエニル)鉄(Ⅱ)(フェロセンと呼ばれている)は,1951年イギリスのキーリーJ.KealyとポーソンP.L.Pausonがそれぞれ独立にはじめてつくった化合物であるが,図のようなシクロペンタジエニル環の正五角形が54度ずれて重なったサンドイッチ構造(鼓形ともいわれる)をしており,それまでにまったく知られていなかった構造をとる化合物ということで注目された。そしてこれに刺激されて同様の構造をもった化合物の合成が多くの化学者の目標となり,各種の金属錯体が合成され,たとえばビス(シクロペンタジエニル)錯体[MⅡ(C5H5)2](MⅡ=V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Ru,Os,その他),ビス(インデニル)錯体[MⅡ(C9H7)2](MⅡ=Fe,Co,Ni,Ru,その他)などフェロセン型のサンドイッチ構造であることが知られている(ただし[Ru(C5H5)2]は重なり型)。これは後にさらに多くのタイプ,たとえばパンに相当する芳香環が傾いていて平行ではなく,中に挟まれるものが金属原子だけではないようなもの(たとえば[MoH2(C5H5)2]など),あるいはパンが1枚しかなくて,その上に金属原子がのったような,いわばオープンサンドイッチのような形(たとえば[In(C5H5)]など)なども見いだされている。また1955年には5員芳香環ではなく,6員環サンドイッチのジベンゼンクロムも合成され,その構造が明らかにされ,さらに4員環シクロブタジエニル,7員環シクロヘプタトリエニルなどのサンドイッチ化合物がつくられている。これらの化合物にみられる結合はまったく新しい種類のもので,化学における新分野を開拓したものであるといえる。
執筆者:中原 勝儼
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報