フェロセン(読み)ふぇろせん(英語表記)ferrocene

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フェロセン」の意味・わかりやすい解説

フェロセン
ふぇろせん
ferrocene

シクロペンタジエニル環2個が鉄原子をサンドイッチ状に挟んだ構造をもつ有機鉄化合物。メタロセンの代表的なものである。1951年にデュポン社のポーソンPeter Ludwig Pauson(1925―2013)らにより合成された。無水塩化鉄(Ⅱ)にジエチルアミンのような塩基を加え、シクロペンタジエンと反応させて合成する。ベンゼンエーテルなどの有機溶媒可溶。また水蒸気蒸留も可能である。ベンゼンに似た芳香族性を示し、芳香族化合物に特有な求電子的置換反応を行う。ただし、ニトロ化などの酸化を伴う反応では、フェロセン環を構成する鉄(Ⅱ)が酸化されて鉄(Ⅲ)になったフェリシウムイオンが生成する。

[佐藤武雄・廣田 穰 2015年7月21日]


フェロセン(データノート)
ふぇろせんでーたのーと

フェロセン

 分子式 C10H10Fe
 分子量 186.0
 融点  173~174℃
 沸点  249℃
 比重  1.49(25℃)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フェロセン」の意味・わかりやすい解説

フェロセン
ferrocene

化学式 (C5H5)2Fe 。2個のシクロペンタジエニル環の中間に鉄原子が存在するπ錯体橙色の針状晶,融点 173~174℃。安定で,水,10%水酸化ナトリウム,沸騰濃塩酸に不溶,アルコール,エーテル,ベンゼンに可溶。濃硝酸や濃硫酸には溶けて深赤色を示す。このシクロペンタジエニル環は正五角形で,10個の水素原子は同一の性質をもっている。炭素-炭素間の距離は 1.42 Å ,2個の環の間隔は 3.2 Å ,鉄原子と炭素原子との距離は 2.05 Å である。フェロセンのペンタジエニル環は芳香族性を示し,フリーデル=クラフツ反応を行い,水素添加は容易でない。フェロセンの鉄原子の代りに他の金属,たとえばクロムコバルトが入った化合物を含めて,メタロセンと総称する。

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