日本大百科全書(ニッポニカ) 「スローターハウス5」の意味・わかりやすい解説
スローターハウス5
すろーたーはうすふぁいぶ
Slaughterhouse-Five
アメリカの作家カート・ボネガットの小説。1969年刊。主人公ビリー・ピルグリムは、作者と同じく、第二次世界大戦末期の連合軍によるドレスデン無差別爆撃をドイツ軍捕虜として体験し、たまたまと畜場の地下室にあって難を逃れる。主人公は不条理の世界の笑劇的遍歴者(ピルグリム)として設定され、時間遊泳術のおかげで最悪の苦痛から逃れることができる。帰国して裕福な結婚生活を送り、空飛ぶ円盤によってトラルファマドール星へ旅行し、その体験談を新聞やラジオで発表する。検眼医の彼は、人間界の不幸を冷然と眺めうる宇宙的な目を手にする幸福な人間である。1960年代ブラック・ユーモア文学の典型と目される。
[寺門泰彦]
『伊藤典夫訳『スローターハウス5』(ハヤカワ文庫)』