内科学 第10版 「その他の肝炎ウイルス」の解説
その他の肝炎ウイルス(肝炎ウイルス)
肝炎ウイルスによると推測されるもののB型やC型と同定できない症例が,現在でも肝疾患患者の5%前後を占めており,血液を介し感染する未知の肝炎ウイルスが存在すると考えられている. 1995年米国の2つの研究グループがほぼ同時に新しい肝炎ウイルスを発見し,それぞれGBV-CとHGVと命名した.これら2つのウイルスの遺伝子配列の相同性は90%以上であり,同一のウイルスと考えられている.GBV-C/HGVの遺伝子配列はHCVに類似している.すなわち,ゲノムRNAの中央に1本の長いopen reading frame(ORF)があって,ポリ蛋白をコードしており,各遺伝子領域の配置もほかのフラビウイルス科と同様である.GBV-C/HGVは,RT-PCR法でみると世界人口の1%前後に広く分布している.HCVと比較して,一過性感染として排除される率も高く,その後にエンベロープに対する抗体が認められ,この抗体はGBV-C/HGVの一過性または持続感染のマーカーになりうることが示唆されている.
現在日本の非B非C型慢性肝疾患では約10%にGBV-C/HGV RNAが検出されるが,C型慢性肝炎でも約10%の患者にこの核酸が検出される.GBV-C/HGV感染者では肝機能異常を認めないか,あっても肝炎の状況がきわめて軽微なことが多く,現在ではGBV-C/HGVは肝炎の原因ウイルスでは考えられていない. TTVは,1997年に日本で発見されたウイルスで,血清トランスアミナーゼ値の上昇を伴う病因不明の輸血後肝炎患者の血中および肝組織中より分離された.患者TTさんの名前からTTVと名づけられたこのウイルスは,エンベロープのない1本鎖DNAウイルスであり,Torque teno virus(TTV)と正式に命名され,Anellovirus(アネロウイルス属)という新規のウイルス属に属する.当初は肝炎ウイルスと目されたが,高感度検出系で検討した結果,一般成人において100%近い陽性率であることが判明し,現在では肝炎ウイルスとしては否定的である.しかし,ある特定の遺伝子型に属するTTVの感染が肝疾患の病態と関連している可能性は高く,今後の検討課題である.[溝上雅史]
■文献
Hollinger FB, Ticehurst J: Hepatitis A virus. In: Virology, 2nd ed(Fields DM ed),pp631-670, Raven Press, New York, 1990.
加藤宣之,土方誠也:ウイルス複製と遺伝子発現,C型肝炎ウイルス.蛋白質核酸酵素,37(10月増刊号):2626-2632, 1992.
岡本宏明,真弓 忠:肝炎ウイルスと肝炎の発症機序,B型.最新内科学大系 48,ウイルス肝炎—肝感染症(井村裕夫,尾形悦郎,他編),pp12-39,中山書店,東京,1991.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報