肝炎ウイルス(読み)かんえんういるす

日本大百科全書(ニッポニカ) 「肝炎ウイルス」の意味・わかりやすい解説

肝炎ウイルス
かんえんういるす

ウイルス肝炎をおこす原因ウイルスのことである。全身性で肝炎を併発するサイトメガロウイルス、黄熱ウイルス、EBウイルスはこれから除かれる。A型肝炎ウイルスhepatitis A virus(HAV)、B型肝炎ウイルスHBV)、C型肝炎ウイルスhepatitis C viruses(HCV)、D型肝炎ウイルスHDV)、E型肝炎ウイルス(HEV)がある。これ以外にもGBウイルス(HGV、G型肝炎ウイルス)、TTウイルス(TTV)の存在が知られるようになった。A型とE型は経口的に感染し、持続性をもたない。B型、C型、D型、G型は血液感染が主要感染経路であり、一過性感染の場合と持続性感染がある。

 A型肝炎ウイルスはピコルナウイルス科のヘパトウイルス属に属する直径27ナノメートルの球形粒子で、エンベロープ被膜)はない。1本鎖RNAウイルスで、酸および胆汁酸成分に耐性があるが、100℃5分間の加熱で完全に不活性化する。小児には感染をしていながら症状を示さない不顕性感染が多く、高齢者には重症化率が高い。経口的に感染する。

 B型肝炎ウイルスはヘパドナウイルス科に分類される。直径42ナノメートルの球形粒子(デーン粒子)で、表層部分にHBs抗原が存在する。デーン粒子の中心には直径27ナノメートルのコア(芯(しん))構造があり、その表面にはHBs抗原とHBc抗原がある。また、コア粒子には環状2本鎖DNAやDNAポリメラーゼのほか、感染性をもつHBe抗原がある。HBウイルスの慢性感染(持続感染)を受けているものをHBs抗原キャリア(保菌者)といい、肝炎症状のない無症状キャリアと慢性肝疾患(慢性肝炎肝硬変肝癌(かんがん)など)を有するキャリアがあるが、約90%は無症状キャリアである。HBキャリアの母体から新生児への垂直感染は重要な感染経路である。

 C型肝炎ウイルスはフラビウイルス科に属する。直径55~65ナノメートルの球形粒子で、エンベロープをもっている。1本鎖RNAウイルスである。HCVは遺伝子塩基配列に多様性があり、50種類以上の遺伝子型に分けられている。それぞれの遺伝子型によって、地域分布性、病原性や抗ウイルス剤としてのインターフェロン感受性などが異なる。感染症として、慢性肝炎疾患となる比率が高く(50~80%)、肝硬変を経て、原発性肝癌へと進展があるといわれる。C型肝炎ウイルスは、1989年、輸血後発症した非A非Bといわれていた患者の血漿(けっしょう)を接種したチンパンジーの血漿からウイルス遺伝子をクローニングcloning(遺伝子のクローンをつくること)することにより発見された。

 D型肝炎ウイルスは分類上位置不明である。B型肝炎ウイルスの衛星のような存在であり、サテライトウイルスsatellite virusやサテライトRNAの特徴がある。単独では増生できない欠損ウイルスで、ヘルパーウイルスとしてHBVの共存を必要とする(HBVと重複感染をおこす)。直径36ナノメートルの球形粒子で、HBV由来のHBs抗原からなるエンベロープをもっている。1本鎖の環状RNAであり、分子内で塩基対をつくり、2本鎖線状の構造となっている。

 E型肝炎ウイルスはカリシウイルス科カリシウイルス属に分類される。直径27~32ナノメートルの球形粒子である。エンベロープはない。プラス鎖の1本鎖RNAの遺伝子をもつ。HAVと同様、劇症肝炎の原因となり、その起因率はHAVより高い。妊婦が感染した場合は死亡率が高く注意を要する。わが国ではHEVは常在しないが将来は流行が予想される。

 GBウイルス(G型肝炎ウイルス)はフラビウイルス科C型肝炎ウイルス属に分類される。プラス鎖の1本鎖RNAの遺伝子をもち、C型肝炎ウイルスと類似性がある。血液感染性で、持続感染性であるといわれるが、不明の点が多い。

 TTウイルスは非A~非G型疾患患者血清から単離したDNAウイルスである。不明の点は多いが、このウイルスの消長と肝機能の異常状態の推移が関連して一致することから肝炎ウイルスとして確認されている。輸血により感染するとされるが、経口感染の可能性もあるといわれる。

[曽根田正己]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「肝炎ウイルス」の意味・わかりやすい解説

肝炎ウイルス
かんえんウイルス
hepatitis virus

肝炎を起すウイルスの総称。現在,A型,B型,C型,D型,E型,G型の6種がわかっている。A型肝炎ウイルスによる肝炎は以前は流行性肝炎と呼ばれていたもので,地域的にときどき流行を起すタイプ。飲食物を介して経口感染する。経過は良好で比較的簡単に治る。B型肝炎は,かつては血清肝炎あるいは輸血後肝炎と呼ばれ,輸血による感染が中心だったが,現在はほとんど母子間の感染あるいは性的接触が原因となって感染する。B型肝炎の一部は慢性化して肝硬変に移行するが,B型肝炎ウイルスの正体は明らかで,すでに予防ワクチンも実用化され,母子感染の場合も 95%以上の予防効果が認められている。A型,B型以外の肝炎ウイルスはこれまで非A非B型として一括して扱われ,正体不明のウイルス群だったが,1989年,アメリカでこのなかからC型肝炎ウイルスが発見され,さらにD型,E型,G型も相次いで発見されている。C型肝炎ウイルスによる肝炎は,その 40~50%が輸血によって感染し,60%の人が慢性化して肝硬変,肝癌へ移行する可能性が大きい。治療薬としてはインターフェロンが注目を集めている。

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