…《オーギー・マーチの冒険》(1953)はまた一転して,主人公が饒舌体の語り口で波乱にみちた自分の半生を語るという結構をとり,シカゴの貧家に生まれた少年の自己探求の旅を軸に現代社会を活写したピカレスク風の長編。《その日をつかめ》(1956)では,成功者の父親から人間の屑と罵られる息子の現代の敗者ぶりを描きながら,いわゆる〈シュレミール(どじな奴)〉の救いの道が探求される。この探求の趣向は次の《雨の王ヘンダーソン》(1959)でも同断だが,おのれの運命の充足を求めてアフリカにとびこんで行く巨大な体軀の50男の遍歴の姿を,《オーギー・マーチ》から受け継いだ放胆な文体で描いたこの長編では,主人公の動静に重ね合わせてアメリカ人全体の思考と行動が戯画的にとらえられている気配がある。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」