改訂新版 世界大百科事典 「キスゲ」の意味・わかりやすい解説
キスゲ
day-lily
Hemerocallis
長い花筒部があるが,ユリに似た花をつけるユリ科の夏緑多年草。園芸家はヘメロカリスと呼ぶこともある。葉は線形で2列に互生する。レモン色の花を夜間に開くキスゲの群と,橙黄色から赤色の昼咲きの花をつけるゼンテイカや,ノカンゾウ,ヤブカンゾウなどの群がある。東アジアの温帯域に10種あまりが分布している。英語名も学名も,美しい花が1日だけでしぼんでしまうことからつけられた名前である。
日本の野生種
レモン色の花をつける群には中部地方以西の海岸や内陸草原に見られる夜咲きのキスゲ(別名ユウスゲ)H.citrina Baroni var.vespertina(Hara)Hotta(英名late yellow day-lily)と,北海道の海岸に分布し,夕方咲き出した花は翌日の午後まで咲くエゾキスゲH.flava L.var.yezoensis(Hara)Hottaがある。橙黄色の花をつける昼咲き群にはいろいろなものがある。尾瀬の大群落で有名なゼンテイカ(別名ニッコウキスゲ)H.dumortierii Morren var.esculenta(Koidz.)Kitam.は近畿北部から北海道にかけての高山の湿原を中心に分布するが,分布域の北部では低地や海岸にも見られ,そのなかで大型の海岸型になったものがトビシマカンゾウH.dumortierii var.exaltata(Stout)Kitam.で山形県の飛島や佐渡の海岸草原に分布する。基本変種のヒメカンゾウH.dumortierii var.dumortierii(英名narrow dwarf day-lily)は日本で栽培されていた園芸品種で,名前のように2~数個の花をつけるかわいらしいカンゾウの1種である。ゼンテイカと異なり地下に長い走出枝を出す八重咲きのヤブカンゾウH.fulva L.var.kwanso Regel(英名double tawny day-lily)や一重咲きのノカンゾウH.fulva L.var.distiche(Donn.)Hottaは,西南日本に多く分布する暖温帯系の種類で,橙黄色の花をつける系統もあるが,多くは赤っぽく,花被の基部寄りに濃色で山形の斑紋を有している。どちらも夏に開花する。三浦半島以西太平洋側海岸には初秋に開花するハマカンゾウH.fulva L.var.littorea(Makino)Hottaが,近畿南部以南から台湾にかけては,さらに遅咲きのアキノワスレグサH.sempervirens Arakiが分布する。両者ともに冬も葉が残る常緑性の傾向が強い。同じような常緑性のものに,栽培されるトウカンゾウH.aurantiaca Baker(英名golden summer day-lily)がある。この種は晩春に橙黄色の大きな花を開く。このトウカンゾウによく似た野生系統は北九州の五島列島から対馬にかけての海岸地帯に分布する。ヤブカンゾウ,アキノワスレグサ,それに中国から導入されたホンカンゾウH.fulva L.var.fulva(英名tawny day-lily/fulvous day-lily)は三倍体で種子はできず,走出枝の先端に生じる芽苗によって栄養的に繁殖する。
利用
キスゲ属の植物は陽地を好み,強健で,花は大型で美しく,各種が春から秋にかけて次々に開き,さらに種間の交配が容易で雑種の稔性もよいため,観賞用に品種改良が進み,多数の園芸品種がアメリカで作出されている。アメリカでは公園や花壇の植込み,切花に広く利用されているが,キスゲ属は本来ヒマラヤから東アジア地域に特産する植物群である。ルネサンス期前後にホンカンゾウやホソバキスゲがヨーロッパにもたらされ,19世紀には,ヒメカンゾウをはじめとして,多数の系統が中国や日本からヨーロッパに導入された。繁殖は株分けによることが普通で,丈夫な植物なので日当りさえよければ毎年開花する。ほとんどの種の若芽,つぼみや花は甘味とぬめりがあって,くせがなく美味である。ホンカンゾウの花を乾燥したものが,中国料理に使われる金針菜(きんしんさい)である。
カンゾウ(萱草)類は漢方薬としても利用され,根にはコルヒチンなどのアルカロイドを含有するものがあり,住血吸虫や結核に効果があるといわれている。
執筆者:堀田 満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報