日本大百科全書(ニッポニカ) 「テトラヒメナ」の意味・わかりやすい解説
テトラヒメナ
てとらひめな
[学] Tetrahymena
繊毛虫門少膜綱膜口目テトラヒメナ科の1属の総称。十数種知られ、すべて淡水産であるが、寄生生活もする種もある。体長は40~160マイクロメートルで、滴形の体全面は繊毛で覆われている。口は体の前端近くにあり、口腔(こうこう)の右縁には融合した繊毛からなる1枚の波動膜が、口腔内には平行に並んだ3枚の膜板があって、属名の由来となっている。体のほぼ中央に各1個の大・小核を有するが、無小核の株も存在する。餌(えさ)は細菌で、口部の4枚の膜により食胞内に取り込む。容易に無菌培養でき、世代時間が3時間ほどなので大量培養がきわめて安易である。培養温度を至適温度とそれより7℃ほど高温とに交互に数十分間ずつ数回反復させることで、細胞の同調分裂(約80%)を誘導させることも可能である。また、高密度の培養や浅い培養液中では数十秒後に多角形模様のいわゆる生物対流を示すことでも有名である。形態的雌雄差はみられないが、接合型の違いから二つ以上の性をもつ種もある(テルモピラT. thermophilaでは7)。ゾウリムシ、エウプロテスなどの繊毛虫と同様に接合(有性生殖)後、数十回無性的に分裂を繰り返す未熟期を経なければ有性生殖能が現れない。近年、接合型・イソ酵素の違いに基づいて、ピリフォルミスT. pyriformisが10種に細分された。そのほかにテルモピラ、無小核のウォラクスT. vorax、寄生生活もするリマキスT. limacisなどがある。
[堀上英紀]