改訂新版 世界大百科事典 「トンタットトゥエット」の意味・わかりやすい解説
トン・タット・トゥエット (尊室説
)
Ton That Thuyet
19世紀後半,ベトナムの反仏抵抗派の政治家。生没年不詳。ベトナム王室グエン(阮)氏の一族に生まれ,1880年代に吏部尚書,兵部尚書としてフエ王廷の実権を握った。1883年,トゥドゥック(嗣徳)帝の死に際して,皇長子を廃してヒエップホア(協和),キエンフック(建福),ハムギ(咸宜)の諸帝を次々に擁立した。85年,前年のフエ条約に基づき,フランス軍司令官ド・クールシーがフエに到着するや,ハムギ帝を擁してこれを攻撃し,さらに帝とともに中部山岳地帯に避難して天下に勤王の詔を宣布,バンタン(文紳)層の決起を呼びかけた。86年には中国に渡って援助を請い,ハムギ帝がフランス軍に逮捕された後も,中国で反仏ゲリラの指揮,後援を続けた。しかし90年代後半は清政府によって広東郊外に屛息させられ,その政治的役割を終えた。
執筆者:桜井 由躬雄
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