改訂新版 世界大百科事典 「のせ猿草子」の意味・わかりやすい解説
のせ猿草子 (のせざるそうし)
御伽草子。渋川版の一つ。異類物。丹波国〈のせ山〉の老猿〈ましおの権頭(ごんのかみ)〉の子〈こけ丸殿〉は,才智にたけ芸能に優れていたが,20歳になって父母から嫁とりをすすめられても思う子細ありと断り続ける。日吉参詣の帰途,北白河の辺で兎の壱岐守の一人姫が琴を弾く美しい姿を見初め,恋の病となる。こけ丸はなおも日吉に詣で肝胆を砕いて起請し,故郷へ帰りもせず,苔を莚にしてぼんやり夜を明かすところへ,狐の〈いなか殿〉が巡り合う。いなか殿は,姫の名を玉世の姫と教え,わが娘けしょうの前を宮仕えさせているからとこけ丸殿の文を預かる。文のやりとりが続いた後,めでたく結ばれ,こけ丸殿夫婦は末繁昌に栄えた。猿,狐,兎の縁語をあしらって詞句を連ね,《古今和歌集》などに関する歌道の知識の援用などもあるが,全編さしたる特色も見られない。
執筆者:徳江 元正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報