日本大百科全書(ニッポニカ) 「パンチャラートラ本集」の意味・わかりやすい解説
パンチャラートラ本集
ぱんちゃらーとらほんしゅう
Pañcarātrasahitā
ヒンドゥー教ビシュヌ派に属するパンチャラートラ派の聖典の総称。同派は最高神ナーラーヤナ(ビシュヌ神)を崇拝し、世界はその最高神の基本的な属性(知識ともろもろの力)の顕現(ビユーハ、分身)にほかならないと説く。具体的には、バースデーバ(クリシュナ)、サンカルシャナ(クリシュナの兄)など4種のビユーハをたてる。「本集」はこのような同派の教義を述べるとともに、マントラ(真言(しんごん))の意味・用法、ヤントラ(護符)やマンダラ(壇)の描き方、神殿の建立方法、神像の供養の仕方など、ビシュヌ教徒の宗教生活のうえで指針となる祭式や儀礼の具体的修法を詳しく規定する。4、5世紀ころより長期にわたって多数の本集がつくられたが、残念ながらその多くは現存していない。初期のものでよく知られているのは『サートバタ』『パウシュカラ』『ジャヤーキー』(以上を「三宝」として重んずる)、『アヒルブドニヤ』などであるが、これらはのちに南インドで隆盛を極めたシュリーバイシュナバ派に教義上の基盤を与えたことでも知られている。
[矢島道彦]