ヒンドゥー教徒,とくにタントリズムを行ずる人々が瞑想の補助具として用いる象徴的幾何学図形による図像。その図形に意識を集中することにより,心中にそれを炳現(へいげん)(あきらかに現れること)させ,その意味するところを生き生きとした経験として体得するのである。さまざまな素材にあらかじめ描かれたものと,瞑想の進行にしたがって描き上げられていく場合とがある。象徴する内容は用途にしたがって次の4種に大別される。(1)神格あるいはその一要素を表すもの,(2)供物や動作など外的な手段によらず,精神のみにより直接神格を礼拝する方式を表すもの,(3)さまざまな階梯をとる神格の諸相を表し,それと同一化することで行者の心も高次の状態に導かれるもの,(4)神格は表さず,世界の本質を象徴し,真実の知を体得するために用いられるもの,以上の4種である。象徴される神格は,シバ,ビシュヌ,クリシュナ,カーリー,ドゥルガーなどと多様であるが,これらの神格は宇宙の根源,世界そのものともされるので,その意味でヤントラは一般に世界の本質を表すともいわれる。
図形としては,次のようなものが用いられる。点(それ以上凝縮しえない究極的相を示す),直線(成長・展開の相を示す),円(〈全体〉を表す),四角形(自然の質料を表す),三角形(サーンキヤ学派の説く純質・激質・暗質という自然の三つの性質などを示し,下向きのものは女性原理を,上向きのものは男性原理を表す),下向きと上向きの二つの三角形が交わってできる六芒星の形(六角の星形で,現象世界を顕現させる力を表す),五芒星(地・水・火・風・空の〈五大〉などを表す)などである。そのほかに〈門〉を表す形(聖域に入る入口を示す),蓮の花弁の形(神格の属性としての願望を成就させる力などを表す)なども用いられる。(図)
執筆者:高橋 明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…儀礼には念珠を用い,マントラ(神歌)が唱えられ,御詠歌に似たバジャンが熱狂的に歌われることもある。またヤントラという象徴的・神秘的図形が用いられ,卍(まんじ)がスワスティカー(幸福の印)として使われ,儀式を行うためにマンダラ(曼荼羅)と称する一定の円形の場所を設ける場合もある。宗教的なめでたさ(吉祥)の象徴として種々の花が用いられるが,とくに蓮華はその代表である。…
※「やんとら」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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