改訂新版 世界大百科事典 「フーマンチュー」の意味・わかりやすい解説
フー・マンチュー
Fu Manchu
イギリスの作家S.ローマーのベストセラー連作小説の主人公。単行本第1作《ドクター・フー・マンチューの秘密》(1913)によると,彼は北京の篤実な漢方医であったが,義和団の鎮圧にあたった西欧列強軍によって妻子を殺されたのを機に,白人への復讐と世界征覇の野望に燃える冷酷な殺人鬼と化した。その手口は巧妙を極め,義和団事件で功を立てた軍人とその家族は次々と怪死する。ローマーはこの人物像をロンドンの中国人街ライムハウスの犯罪王をモデルに創造したという。パラマウント映画会社が1929年に本格的な映画化を開始,独特の八の字ひげは〈フー・マンチューひげ〉と呼ばれ,まねる男性が続出した。84年現在まで映画作品は13を数え,ボリス・カーロフ,クリストファー・リー,ジャック・レモンなどが主役を務めている。欧米の中国趣味(シノアズリー)と黄禍不安の結合による特異なキャラクターで,多くの亜流も生んだ。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報