マルエージング鋼 (マルエージングこう)
martensite-agehardened steel
析出硬化型ステンレス鋼から発展した超強力鋼である。名称は,マルテンサイト地にした状態で時効析出硬化処理agehardeningを行うということに由来する。合金元素としては,クロムCrを多量に含み,これにニッケルNiを添加した,17-7PH(17%Cr,7%Ni),17-4PH(17%Cr,4%Ni)などの名称をもつ析出硬化型ステンレス鋼と同様の成分である(PHとは析出硬化precipitation hardeningの略号)。マルテンサイト地そのものは焼入れされた状態では炭素量が低いため硬度はあまり大きくないが,添加元素としてチタンTi,アルミニウムAlを含む場合は,Ni3TiとかNi3Alといった金属間化合物が時効中に分散析出して強化される。引張強さ200kgf/mm2以上の性能をもち,かつこの強さにおいてもなお数%の破断伸びをもつ強靱な材料である。ウラン濃縮用の高速回転の遠心分離装置の容器など,高応力下で使用される構造物用の材料として使用される。
執筆者:木原 諄二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
マルエージング鋼
まるえーじんぐこう
maraging steel
マルエージ鋼ともいう。代表的な組成が、18%のニッケルのほかにアルミニウム、チタン、モリブデン、コバルトなどの合金元素を添加した鋼である。
通常の鋼では2%以下の炭素を故意に含ませて強化を図るが、マルエージング鋼では炭素含有量を極力少なくしている点が特徴である。通常の鋼は焼き入れるとマルテンサイトとよばれる組織となって硬化し、焼き戻すと軟化する。焼き入れられたマルエージング鋼は普通の鋼と同様に焼き入れてマルテンサイトになるが、このマルテンサイトは炭素を含まないので軟らかく、プレス成形により複雑な形状に加工することができる。その後に500℃付近に加熱(エージングaging)すると合金元素の化合物が析出して、甚だ硬くなるが、その際のひずみ量が少ないことが特長である。
マルテンサイト・エージング鋼を縮めて命名されたこの鋼は、最初ミサイルやロケットの弾頭のために開発されたが、現在は強靭(きょうじん)性をとくに要求される複雑・精密を要する機械部材や工具にも用いられている。
[須藤 一]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内のマルエージング鋼の言及
【強靱鋼】より
…このような強靱さを必要とする鋼としては[機械構造用鋼]がある。また,共析鋼を冷間線引きし,低温焼きなましをして製造する[ピアノ線]や,ニッケルを合金元素としてアルミニウムやチタンを添加した[マルエージング鋼]も強靱な材料として開発されたものである。【木原 諄二】。…
【特殊鋼】より
…代表的なAlunico‐Vの組成はCo24%,Ni14%,Al8%,Cu3%,Fe51%,(c)ハットフィールド鋼 Mn12%,C1%を含む高Mn鋼であり,鋳造のままでは析出する炭化物のためもろいが,1100℃に加熱したのち水中に焼き入れると全オーステナイト組織となり,靱性をもつ。この材料は冷間加工や表面摺動によって硬さと耐摩耗性が増加するので,破砕機の刃,レールの切替ポイント部など特殊な用途に使われる,(d)[マルエージング鋼] 180kgf/mm2以上の引張り強さをもつ鋼で,超強力鋼の一種である。代表的な組成はNi18%,Co9%,Mo5%などを含む高Ni鋼である。…
※「マルエージング鋼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」