日本大百科全書(ニッポニカ) 「マルエージング鋼」の意味・わかりやすい解説
マルエージング鋼
まるえーじんぐこう
maraging steel
マルエージ鋼ともいう。代表的な組成が、18%のニッケルのほかにアルミニウム、チタン、モリブデン、コバルトなどの合金元素を添加した鋼である。
通常の鋼では2%以下の炭素を故意に含ませて強化を図るが、マルエージング鋼では炭素含有量を極力少なくしている点が特徴である。通常の鋼は焼き入れるとマルテンサイトとよばれる組織となって硬化し、焼き戻すと軟化する。焼き入れられたマルエージング鋼は普通の鋼と同様に焼き入れてマルテンサイトになるが、このマルテンサイトは炭素を含まないので軟らかく、プレス成形により複雑な形状に加工することができる。その後に500℃付近に加熱(エージングaging)すると合金元素の化合物が析出して、甚だ硬くなるが、その際のひずみ量が少ないことが特長である。
マルテンサイト・エージング鋼を縮めて命名されたこの鋼は、最初ミサイルやロケットの弾頭のために開発されたが、現在は強靭(きょうじん)性をとくに要求される複雑・精密を要する機械部材や工具にも用いられている。
[須藤 一]