モリブデン(読み)もりぶでん(英語表記)molybdenum

翻訳|molybdenum

日本大百科全書(ニッポニカ) 「モリブデン」の意味・わかりやすい解説

モリブデン
もりぶでん
molybdenum

周期表第6族に属するクロム族元素の一つ。原子番号42、元素記号Mo。古代ギリシア・ローマのころから鉛のような輝きをもつ柔らかい鉱物をモリブドスmolybdosとよんでおり、鉛や黒鉛との区別が不明瞭(ふめいりょう)であったが、1778年にスウェーデンのシェーレによって独立の元素であることがわかり、その原鉱石モリブデナイトmolybdenite(輝水鉛鉱MoS2)からモリブデンと命名された。

 地殻には広く存在するが、存在度は高くはない。輝水鉛鉱のほか、モリブデン鉛鉱PbMoO4が主要な鉱物である。海水、動物の体液、土壌にも少量ではあるが含まれる。

 三酸化モリブデンMoO3を900~1000℃で水素還元すると灰色粉末として得られる。融解あるいは焼結したものは白色光沢をもつ。酸化モリブデンをアンモニア水に溶かして得られるパラモリブデン酸アンモニウムを焼いて三酸化モリブデンとし、これを昇華精製したものを原料とすると高純度の金属モリブデンを得る。

 金属モリブデンは広い温度範囲にわたって機械的強度に富み、ステンレス合金、耐火合金などに使用され、モリブデン化合物は電子材料、顔料触媒、潤滑剤などに使われる。酸化数+Ⅱから+Ⅵまでの各酸化数の化合物が多く知られている。

[岩本振武]

生体とモリブデン

生体に必要な数少ない重金属の一つである。モリブデンが植物の生育に不可欠な要素であることは古くから知られていたが、動物にとって必須(ひっす)かどうかははっきりしていなかった。近年、動物でも数種類の酵素の活性発現に必要なことがわかり、人でも微量必須元素とされるようになったが、ふつうの食事で十分摂取できるので、欠乏症の心配は事実上ない。植物では窒素代謝に必要な元素であり、微量栄養元素の一つ。窒素固定細菌であるアゾトバクターや、マメ科植物の根粒菌の窒素固定にも不可欠である。微生物、植物の硝酸還元酵素(ニトレートレダクターゼ)の活性を発現するために必須であり、そのほかにも細菌のギ酸脱水素酵素(ホルメートデヒドロゲナーゼ)や窒素固定におけるニトロゲナーゼなど、いくつかの酵素がモリブデンを要求することが知られている。

[笠井献一]



モリブデン(データノート)
もりぶでんでーたのーと

モリブデン
 元素記号  Mo
 原子番号  42
 原子量   95.96
 融点    2620℃
 沸点    4660℃
 比重    10.22(20℃)
 結晶系   立方
 元素存在度 宇宙 2.52(第45位)
          (Si106個当りの原子数)
       地殻 1.5ppm(第52位)
       海水 10μg/dm3

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「モリブデン」の意味・わかりやすい解説

モリブデン
molybdenum

元素記号 Mo ,原子番号 42,原子量 95.94。周期表6族に属する。輝水鉛鉱 (モリブデナイト) ,モリブデン鉛鉱などとして広く産出する。地殻の平均存在量 1.5ppm,海水中の存在量 0.01 mg/l 。親生元素でもあり,動植物中にも微量ではあるが常に含まれている。単体金属は銀白色の結晶で融点 2622±10℃,比重 10.28。熱濃硫酸,王水に可溶。酸化数は2,3,4,5,6が普通。タングステンとともに高融点金属として知られる。高温で蒸気圧が低く,炭素に近い。しかも機械強度が大きいので用途は広く,電子管の陽極,グリッドおよび支持物,電気回路のコンタクト,耐熱材料,高温部品,特殊合金,電熱線,コーティング,その他に使用されている。 1778年スウェーデンの化学者 K.シェーレによって発見された。

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