デジタル大辞泉 「故意」の意味・読み・例文・類語
こ‐い【故意】
2 私法上、自分の行為から一定の結果が生じることを認容しながら行為に出る心情。刑法上は、罪となる事実を認識し、かつ結果の発生を意図または認容している場合をいう。⇔過失。
[類語]わざと・殊更・作意・作為・意識的・意図的・計画的・作為的・未必の故意・積極的・能動的・自発的・わざわざ・殊の外・殊に・好んで・わざとらしい・こと新しい・あえて・せっかく・とりわけ・自ら・手ずから・
判例では,行為から一定の事実が発生することを認識していることとされている。しかし学説上,さらに事実発生に対する認容もしくは意欲を必要とするかについて争いがある(後述のように民法では肯定するのが通説)。故意は過失と並ぶ主観的要件である。刑法では,過失を処罰する特別な規定のない場合には,故意のないかぎり犯罪は成立しないので(刑法38条1項),故意の意義が重要な問題になる。
刑法上の故意とは,つまり犯罪を犯す意思(犯意)であり,犯罪事実の認識をいう。故意があるというためには,(1)各犯罪を構成する客観的事実を認識しなければならない。行為,行為の客体,行為の結果,行為と結果間の因果関係,一定の犯罪における行為の状況(鎮火妨害罪における〈火災の際に〉等)および行為の主体(収賄罪における公務員という身分等)の認識が必要である。これに対して,結果的加重犯における重い結果等については認識する必要はない。行為者の認識した事実と現実に発生した結果とが一致しない場合,たとえば,Aを殺そうとして発砲したが,Aではなく,そばにいたBに当たった場合は,〈事実の錯誤〉でありBに対しても殺人の故意があるといえるかが問題となる(錯誤)。
(2)犯罪事実を意欲する必要があるかについて,判例はたんに犯罪事実の認識で足ると解する(認識説)。しかし,多数説は結果の発生を意欲する必要があると解する(意思説)。
(3)違法性の意識,すなわち,自己の行為が違法であることを意識していることが必要かについては争いがある。判例は,刑法が〈法律を知らなかったとしても,そのことによって,罪を犯す意思がなかったとすることはできない〉(38条3項)としていることを理由に,不要説を採っている。これに対して,学説は多岐に分かれる。大別すれば,違法性の意識は故意の要件だと解する厳格故意説,違法性の意識ではなく,違法性の意識の可能性が故意の要件であると解する制限故意説,そして,違法性の意識は故意の要件ではなく,責任の要件であると解する責任説がある。違法性の錯誤(法律の錯誤),つまり,行為者が法律上許されないと知らずに,または法律上許されていると誤信して行為した場合に結論が異なる。
なお,故意の種類として,結果の発生を確実なものとして認識する確定的故意とこれを不確定なものと認識している不確定的故意とがある。後者は,さらに,群集に向けて発砲する場合のように,結果の発生は確実だが,だれに,何人に結果が発生するかが不確定な概括的故意,A,Bのいずれか1人を殺す意思で発砲するように,A,Bのいずれに結果が発生するかが不確定な択一的故意,およびAを射殺することになるかもしれないと思いながら,あえて発砲する場合のように,結果の発生そのものを不確実に認識している〈未必の故意〉とに分けられる。
→過失
執筆者:堀内 捷三
民法上,故意とは,一定の結果の発生を意図し,または一定の結果の発生を認識もしくは予見しながらもそれを認容していることをいう。故意は,過失と並んで,不法行為の成立要件の一つであるが(民法709条),法律上の責任を課すための要件として故意と過失とを区別していない日本民法のもとでは,両者を厳密に区別する実益がないとするのが一般的な考えである。しかし,損害賠償額(とくに慰謝料)の算定等に関して両者を区別する実益があるという考えも強く主張されている。
→過失 →不法行為
執筆者:新美 育文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
犯罪を犯す意思。犯意ともいう。刑法第38条1項は、「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない」と規定している。犯罪として処罰しうるためには原則として故意が必要であり、過失犯は例外的に処罰されるにすぎない。民法上も不法行為の要件として一般に故意または過失が必要とされる。この場合の故意の内容は刑法上の故意と異ならない。ただし民法上は故意または過失を区別する実益は少ないとされる。
近代法のもとでは、法的責任を問うためには、行為者個人に故意または過失が認められなければならない。とりわけ刑事責任においては、違法な行為を行ったことにつき行為者に責任非難を課しうる場合でなければならないが、この非難を課しうるための心理的要素が故意または過失である。故意または過失は、従来責任要素とされてきたが、単に責任の問題にとどまらず、違法要素であり、構成要件要素でもあるという見解も有力である。
ところで、故意が認められるためには、まず、犯罪事実の認識および認容(容認)が必要である。ここに犯罪事実とは、行為、結果および両者の因果関係、行為の状況といった構成要件に該当する客観的事実をいう。これらの事実につき、行為者が認識するにとどまらず、これを認容することを要する(認容説)。したがって、当該犯罪事実につき認識がない場合はもとより、この認識はあるが認容がなければ故意は成立しない。
次に、犯罪事実の認識・認容のほか、違法性に関しどのような認識または意識を要するかにつき困難な問題がある。この点に関して、犯罪事実の認識・認容があっても、違法阻却事由(違法性阻却事由)にあたる事実を認識している場合には故意が阻却されるものと一般に解されている。したがって、いわゆる誤想防衛(客観的には急迫不正の侵害が存在しないのにこれがあるものと誤認して反撃行為を行う場合)など違法阻却事由の錯誤においては故意が阻却され、せいぜい過失犯が成立するにとどまる。故意が成立するためには違法性の意識、すなわち自らの行為が違法であるという意識を要するか否かについては、これを要しないとする不要説(判例)、これを要するとする厳格故意説、その可能性で足りるとする制限故意説のほか、違法性の意識やその可能性は故意とは別個独立の責任要素であると解する責任説が大きく対立している。
なお故意には、大きく分けて、犯罪事実の発生を確定的に認識する確定故意と、これを不確定なものとして認識する不確定故意とがある。このうち、不確定故意には、概括的故意(結果発生は確実であるが、その客体や個数が不確定である場合)、択一的故意(数個の客体のうち、いずれに結果が発生するか確定していない場合)、未必の故意(結果の発生を確定的に認識していないが、その発生を容認している場合)がある。このうち、未必の故意と認識のある過失との関係がしばしば問題になる。これはいずれも結果発生を不確実認識している点では同じであるが、それを認容しているか否かにより区別される。
[名和鐵郎]
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字通「故」の項目を見る。
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出典 自動車保険・医療保険のソニー損保損害保険用語集について 情報
…これは,行為を〈目的活動〉とし,行為概念の中核に〈目的性〉をおく行為論であって,既成の犯罪論を再構成しようとする意図をもっている。この理論の重要な帰結は,これまで責任要素とされていた故意(たとえば,人を殺すことの認識・意図)を,行為の本質的要素であるとし,したがって,故意行為と過失行為とは本質的に異なるもので,故意は主観的違法要素であると解する点にある。さらに目的的行為論は,このように故意を責任論から排除することによって,違法性の意識の可能性を,故意から独立した責任要素として把握する見解(責任説)を理論的に基礎づけることができると主張するのである。…
…不法行為はこの民事責任を生ぜしめる事実として観念される概念であり,法律の規定(民法709条)との関連において次のように定義される。すなわち不法行為とは,故意または過失によって他人の法上保護に値する利益を侵害して損害を生ぜしめる行為である。法律上は民法の第三編(債権)中に〈不法行為〉という節が置かれており,法典中の位置づけから不法行為は,契約,事務管理および不当利得と並んで,債権の発生原因と解されている。…
※「故意」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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