ニッケル(読み)にっける(英語表記)nickel

翻訳|nickel

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニッケル」の意味・わかりやすい解説

ニッケル
にっける
nickel

周期表第10族に属し、鉄族元素の一つ。

歴史

ニッケルの合金は、2000年以上も前に中国で知られていたが、金属として単離されたのは200年ほど前のことにすぎない。17世紀末ごろ、ドイツでは紅砒(こうひ)ニッケル鉱NiAsをガラスの緑色着色材として用いていた。当時これは銅の鉱石と信じられていたが、どうしても銅を単離することができなかったので、「Kupfernickel」(Old Nick's copperすなわち悪魔の銅)とよばれるようになった。1751年、スウェーデンのクローンステッドAxel Fredric Cronstedt(1722―1765)は、ヘルシングランドのコバルト鉱山から採集した新鉱石を研究中、その風化した表面を覆っていた緑色の結晶から、銅とは異なる、白色の硬くてもろい金属を単離した。彼はこの新金属がKupfernickelの主要成分でもあることを明らかにし、ニッケルの名を与えることを提案した。純粋なニッケル試料は、同国のT・O・ベリマンによって1775年に初めてつくられ、その後ドイツのJ・B・リヒターらによって物理的性質が報告された。

[鳥居泰男]

存在

地殻中の存在量は銅と同程度であるが、地球の中心部では鉄とともにかなりの量が存在するものと推定される。ニッケル固有の鉱物は硫黄(いおう)、ヒ素、アンチモン化合物で、おもなものに針ニッケル鉱NiS、紅砒ニッケル鉱、安ニッケル鉱NiSb、砒ニッケル鉱NiAs2、硫砒ニッケル鉱NiAsS、硫安ニッケル鉱NiSbSなどがある。しかし工業的資源としては、風化によって二次的に生成した珪(けい)ニッケル鉱(Ni,Mg)6Si4O10(OH)8や硫鉄ニッケル鉱(Ni,Fe)9S8などのほうが重要である。前者はマグネシウムとニッケルの含水ケイ酸塩鉱物で、ニュー・カレドニア島、アメリカのノース・カロライナ州やオレゴン州に産出する。後者は鉄との混合硫化物で、磁硫鉄鉱黄銅鉱あるいは白金属の鉱石などと混在して産出する。カナダのオンタリオ州にはこの型の、世界最大級の鉱床がある。世界の埋蔵量はNi純分で1億トン程度であるが、日本には採取に値する鉱床はほとんど存在しない。なお、ニッケルは隕石(いんせき)中に鉄およびコバルトとの合金として含まれていることがある。

[鳥居泰男]

製法

ニッケルの製錬法は鉱石の種類や品位によってさまざまであるが、一般に、原料が硫化鉱の場合には、精鉱はそのまま、硫黄含有量の多いものは不完全焙焼(ばいしょう)によって硫黄を減らしたのち、融剤(石灰石、珪石など)を加え、溶鉱炉、反射炉、自溶炉などで融解する。原料が珪酸塩鉱の場合には硫化剤(石膏(せっこう)、芒硝(ぼうしょう)など)を加えて同様の処理をする。ニッケルは硫化物(鈹(かわ)、マットともいう)に、また鉄その他の不純物はケイ酸塩(スラグ)となり、比重の差によって分離される。このようにして得た硫化ニッケルを焼いて酸化ニッケルとし、これを反射炉で炭素で還元するか、または水性ガスで還元して粗ニッケルとする。粗ニッケルを陽極とし、ステンレス鋼を陰極として電解すると、純度99.0~99.5%のニッケルが得られる。また、粗ニッケルに40~90℃で一酸化炭素を通じて揮発性(沸点42.3℃)のテトラカルボニルニッケルNi(CO)4に変え、これを200℃近辺で熱分解すると、純度99.90~99.99%のものが得られる(モンド法)。

[鳥居泰男]

性質

ニッケルは光沢のある銀白色の金属で展性、延性に富み、鉄と同様に鍛造ができる。通常の結晶(β(ベータ)型)は立方最密充填(じゅうてん)型の構造をとり、357℃以下で強磁性を示す。ただしその程度は鉄よりは弱い。常温において、銀に比べ14~15%程度の電気伝導率と熱伝導率をもっている。六方最密充填型の結晶(α(アルファ)型)も知られているが、これは強磁性ではない。ニッケルは緻密(ちみつ)な金属状態では、常温で空気あるいは水にきわめて侵されにくいため、保護膜として電気めっきに用いられる。粉末状では、空気に対して反応性が著しく、ときには自然発火することもある。希薄な酸には鉄よりも溶けにくい。希硝酸には容易に溶けるが、濃硝酸には鉄と同様に不動態となるため溶けない。化合物をつくる場合、通常は+2の酸化数をとるが、より低い状態や、+3、+4などの状態もまれにはみられる。

[鳥居泰男]

用途

2007年における世界のニッケル消費量は132万トンであり、そのうち日本は13%を占める。純金属として実験器具や家具などの材料に、まためっき用として金属表面の保護に用いられる。微粉末状のものは水素を吸蔵するので、水素添加用触媒として用いられる。しかしそれ以上に各種の合金の成分としての需要のほうが多く、たとえば、洋銀、ニクロム、コンスタンタン、マンガニン、ニッケリンなどの合金として多方面に用いられるほか、鋼に添加してニッケル鋼、ニッケルクロム鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼、磁石鋼などの特殊鋼が製造される。

[鳥居泰男]



ニッケル(データノート)
にっけるでーたのーと

ニッケル
 元素記号  Ni
 原子番号  28
 原子量   58.69
 融点    1450℃
 沸点    2730℃
 比重    8.845(測定温度25℃)
 結晶系   立方(低温)
 元素存在度 宇宙 (Si 106個当りの原子数)
          4.57×104(第15位)
       地殻 75ppm(第22位)
       海水 1.7μg/dm3

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニッケル」の意味・わかりやすい解説

ニッケル
nickel

元素記号 Ni ,原子番号 28,原子量 58.6934。周期表 10族,ニッケル族元素の1つ。主鉱石は硫化鉱と酸化鉱で,ペントランダイト,ガーニーライトが主要なものである。地殻中の平均存在量は 75ppm,海水中の含有量は5 μg/l 。 1751年スウェーデンの鉱物学者 A.クローンステッドによって発見された。単体は銀白色の金属で,融点 1455℃,比重 8.845。展延性に富み,鍛造,鍛接が可能。強磁性体。空気中で安定。2価の陽イオンとして酸に溶解。ステンレス鋼,鉄磁性合金としての需要が多く,また銅-ニッケル合金,ニクロム合金,メッキ用,貨幣用,化学薬品として用いられる。

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