周期表第ⅣA族に属するチタン族元素の一つ。チタニウムともいう。イギリスのグレゴールW.Gregor(1761-1817)は1789年に,コーンウォール地方のメナカンMenachan産の砂鉄(チタン鉄鉱)中に新金属の存在を推定しメナチンmenachinと命名した。またドイツのM.H.クラプロートは94年にルチルから新元素を見いだし,ギリシア神話の巨人族ティタンにちなんでチタンと命名,97年にはメナチンと同じものであることを明らかにし,グレゴールのプライオリティを認めて,以後この元素がチタンと呼ばれるようになった。初めは金属をとり出すことができなかったが,1825年J.J.ベルセリウスがフルオロ錯塩を金属カリウムで還元して分離した。1925年,オランダのファン・アルケルA.E.Van Arkelがヨウ化チタンの熱分解法で比較的純粋なチタンをつくり,きわめてすぐれた性質をもつことが明らかにされてから,多くの研究が重ねられたが,高温で酸素や窒素,空気中の水分と結合しやすいため単体金属を得ることは困難であった。40年ドイツのクロルW.J.Kroll(1889-1973)が塩化チタン(Ⅳ) TiCl4のマグネシウム還元法,いわゆるクロル法を発明してから,炭素,窒素および酸素の含有量の少ない金属チタンが工業的に利用されるようになった。
古くは希元素に分類されていたが,地殻中の存在度が高く,しかもきわめて広く分布し,土壌中には酸化チタン(Ⅳ) TiO2として約0.6%含まれている元素である。自然界に存在する鉱石は,ルチル,板チタン石,アナターゼ(いずれもTiO2が主成分),チタン鉄鉱(イルメナイト),砂鉄(鉄とチタンの酸化物を含む)などである。なおアポロ11号が持ち帰った〈月の石〉にはチタンが10%余も含まれていることが判明し,注目を浴びた。
銀白色の金属。マグネシウム,アルミニウムに次いで軽く(比重4.50),展延性に富み,機械的性質にすぐれる。比強度(強度/比重)は普通鋼の約2倍,アルミニウムの約6倍もある。耐熱性もよく,500℃くらいまで降伏強さが高い。きわめて耐食性にすぐれ,酸,海水などに耐える。とくに海水に対しては白金と同程度で,これはチタン表面に形成される酸化皮膜によるものである。空気中では安定であるが,酸素中で強熱するとTiO2となる。ハロゲンと熱すると反応するが,酸には鉄よりも溶けにくい。
単体金属は前述のようにクロル法によって製造される。イルメナイトを原料とする場合にはあらかじめ鉄を分離する。これには,電気炉で鉄を還元してTiO2を主成分とするチタンスラグをつくる方法,硝酸で鉄を溶出する方法,選択塩素化によって鉄だけを塩化物として除去する方法などがある。クロル法では,まずTiO2を炭素とともに塩素ガスと反応させ,塩化チタン(Ⅳ) TiCl4とする。
TiO2+2Cl2+2C─→TiCl4+2CO
次にTiCl4の不純物を蒸留法により除いた後,金属マグネシウムによって金属チタンに還元する。反応温度は約900℃である。
TiCl4(気体)+Mg(液体)─→MgCl2(液体)+Ti(固体)
金属チタンはスポンジ状に生成し,付着している塩化マグネシウム,金属マグネシウムなどを真空で取り除いた後,真空中または不活性気体中で消耗電極式のアーク溶解法によってチタンインゴットにされる。さらに高純度のものを必要とするときには,チタンをヨウ素と250~300℃で反応させてヨウ化チタンとし,その蒸気を1100~1500℃で熱分解するヨウ化物法により,99.96%の高純度チタンをつくる。
軽量で強度が大きく,耐熱・耐食性にすぐれることから,強力合金として航空・宇宙産業関係に広く用いられる。日本では工業用純チタンとして化学工業プラント,とくに反応機器,熱交換器,バルブなどの耐食材料として用いられている。また電解用電極,火力発電用復水管,海水淡水化装置,公害防止装置,海洋開発機器などへの用途も広がり,単体またはニオブなどとの合金として超伝導材料にも利用されている。
執筆者:中原 勝儼+後藤 佐吉
土星の第Ⅵ衛星。タイタンともいう。1655年,オランダのC.ホイヘンスによって発見された。土星の中心から122万1790km(土星半径の20.36倍)のところを,15.945452日で公転している。半径は2575km,質量は1.346×1026g(土星の2.367×10⁻4倍),太陽系で2番目の大きさをもつ衛星で,半径は水星より大きい。平均密度は1.88g/cm3と求められる。1944年,G.P.カイパーは分光観測によりメタンを発見し,大気をもつ衛星であることが知られた。80年,探測機ボエジャー1号はその大気の主成分(99%)が窒素であり,表面での圧力が1.5気圧に達していることをつきとめた。表面重力が地球の0.14倍であることを考えると,単位表面積当りの大気の量は地球の約11倍,全大気量は地球の約1.8倍であることがわかる。チタンは本格的大気をもつ唯一の衛星で,表面温度は-180℃と求められているが,厚い雲に覆われているため表面の状態は明らかでない。
執筆者:田中 済
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
Ti.原子番号22の元素.電子配置[Ar]3d24s2の周期表4族遷移元素.原子量47.867(1).安定同位体は46(8.25(3)%),47(7.44(2)%),48(73.72(3)%),49(5.41(2)%),50(5.18(2)%).質量数38~63の同位体核種が知られる.1791年イギリスのW. GregorがCornwall産の砂鉄中に鉱物ルチルを発見したが,1795年ドイツのM.H. Klaprothは,ルチルが新元素の酸化物であることを見いだして,ギリシア神話の巨神Titanにちなみチタンと名づけた.宇田川榕菴は天保8年(1837年)出版の「舎密開宗」で知担紐母(チタンニウム)と記載している.日本語の元素名はこの元素のドイツ名による.
希元素の一種と考えられてきたが広く分布している.地殻中の存在度5400 ppm.天然にはルチル(金紅石)TiO2,イタチタン石TiO2,鋭すい石TiO2のほか,イルメナイト(チタン鉄鉱)FeTiO3,ベロブスカイトCaTiO3,チタナイトCaO・TiO2・SiO2などとして産出するが,主要な工業原料はイルメナイトとルチルである.チタン需要の9割強を担うイルメナイト確認埋蔵量(1400百万t)は中国25%,南アフリカ,インドともに15%,オーストラリア11% の順である.製錬にはKroll法あるいはHunter法が用いられる.1930年代に開発されたKroll法は,炭素とともに赤熱したイルメナイトまたはルチルに塩素を通じて四塩化チタンを生成させ,これを分別蒸留により精製したのち,ヘリウムまたはアルゴン中で800~900 ℃ に加熱溶融した金属マグネシウムで還元する.反応生成物を1000 ℃ で真空蒸発し,MgとMgCl2を除去したのちに得られるものは海綿状で,スポンジチタンとよばれ,約99.5% のチタンを含む.スポンジをプレス成形後,溶接して電極とし,真空アーク溶解法によって溶解してインゴットとする.高真空下の電子ビーム溶解法,不活性雰囲気下のプラズマビーム溶解法も用いられる.還元剤として金属ナトリウムを用いるのがHunter法で,1910年にこの方法によりはじめて工業的に純金属が得られた.この方法によるスポンジは鉄,ニッケルなどの不純物が少ないため,電子工業用製品原料生産の小規模プラントのみが稼働しているが,大規模化によるコストダウンに適したKroll法にほとんど取ってかわられた.きわめて純度の高いチタンを得るには,ヨウ化チタンTiI4の蒸気を1300 ℃ のタングステンフィラメント上で分解するVan Arkel-de Boer法による.Kroll法はバッチ法で連続運転に適さない.金属チタンは銀灰色,α,βの2型があり,α型は六方晶系,転移点882 ℃ 以上で等軸晶系のβ型になる.常磁性.密度4.54 g cm-3(20 ℃).融点1660 ℃,沸点3287 ℃.強度,耐熱性,耐食性にすぐれ,熱伝導率,熱膨張率が小さい.金属結合半径0.145 nm,イオン半径0.081 nm(Ti3+,六配位),0.075 nm(Ti4+,六配位).第一イオン化エネルギー6.82 eV,酸化数-1,0,2~4.TiⅣ化合物がもっとも多い.低温では安定であるが,高温では非常に活性となり,多くの非金属と直接化合する.空気中では室温でも徐々にきわめて薄い酸化皮膜をつくる.200~500 ℃ では温度上昇にともない皮膜が厚くなり,厚さに応じて褐色,濃青色,紫色などに変色する.さらに高温では表面がまず灰白色に曇り,銀白色,濃灰色層状に変化する.酸素中では610 ℃ で炎をあげて燃えTiO2となる.窒素とは800 ℃ 以上の温度で直接化合して窒化チタンTiNとなる.フッ素とは150 ℃ でTiF4を,塩素とは300 ℃ でTiCl4をつくる.ケイ素とも高温でTiSi2を生じる.粉末状チタンは水素を吸収する.多くの金属と合金をつくる.希塩酸,希アルカリには侵されないが,フッ化水素酸には [TiF6]3- となってよく溶ける.
金属チタンは比重が小さく(スチールの約半分),強度,耐食性にすぐれているので,石油および化学産業の配管,反応塔のほか,ジェットエンジン,航空機,潜水艦の構造材料などとして利用される.種々のチタン合金がつくられ,人工骨・関節,眼鏡フレーム,ゴルフクラブなどスポーツ用品に用いられる.金属としての需要は,わが国では全需要の1/10以下である.[CAS 7440-32-6][別用語参照]チタン化合物
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
周期表第4族に属し、チタン族元素の一つ。原子番号22、元素記号Ti。チタニウムともいうが、それは学術用語としては正式名称ではない。
[岩本振武]
1795年ドイツのクラプロートは鉱物ルチルから新しい金属元素を発見し、ギリシア神話のティタンTitanにちなんで命名した。のちに彼は、これが1791年イギリスのグレーガーWilliam Gregor(1761―1817)がチタン鉄鉱からすでに発見していた元素メナチンmenachin(発見地Menachanに由来する命名)と同一の元素であることを明らかにしたが、元素名としてはチタンが採用された。単体の金属は1825年スウェーデンのベルツェリウスがヘキサフルオリドチタン酸カリウムのカリウム金属還元によって得た。
[岩本振武]
地殻中に広く分布しており、ルチル、板チタン石、鋭錐石(えいすいせき)などの酸化チタン(Ⅳ)鉱物があり、砂鉄中にもチタン鉄鉱FeTiO3が含まれている。鉱石中の酸化チタンをコークス、木炭などの炭素および塩素で処理して塩化チタン(Ⅳ)とし、これを蒸留精製(沸点136.4℃)してマグネシウム還元すると金属チタンを得る。これを加熱して不純物を除くと、スポンジチタンとよばれる純度99.6~99.85%の金属となる。これをヨウ素と250~300℃で反応させてヨウ化チタン(Ⅳ)とし、その蒸気を熱分解すると99.96%程度の高純度チタンを得る。
[岩本振武]
単体金属は銀白色、常温では六方晶系のα(アルファ)形、882℃の転移温度で立方晶系のβ(ベータ)形に転移する。高純度金属には展延性があり、耐食性がある。通常の金属は冷時にもろく、容易に粉末化できる。炭素、窒素、酸素などの非金属元素不純物は加工性に大きく影響するので、融解、鋳造、熱処理などは真空中あるいはアルゴン気流中で行う。自重に対する機械的強度比は鉄の約2倍、アルミニウムの約6倍に達し、熱伝導率、熱膨張率が小さいので、航空機、船舶その他の軽量構造材に使われ、化学工業用耐食性容器にも利用される。耐海水性も高い。冶金(やきん)技術上の問題から高価格にはなるが、性能面ではとくに重要な金属材料となっている。
常温の空気中では安定であるが、25気圧の酸素中で自然発火し、新しい表面は常温でも自然発火する。窒素中でも800℃で燃え、窒化チタンTiNとなるが、窒素中で激しく燃焼する唯一の元素であるといわれている。酸化数+Ⅳ、+Ⅲ、+Ⅱの化合物が知られ、+Ⅳが安定であり、+Ⅲがこれに次ぐが、3価の化合物は一般に強い還元剤となる。
[岩本振武]
チタン
元素記号 Ti
原子番号 22
原子量 47.867
融点 1660℃
沸点 3300℃
比重 4.50(20℃)
結晶系 α:六方
元素存在度 宇宙 2300(第21位)
(Si106個当りの原子数)
地殻 0.57%(第9位)
海水 1μg/dm3
土星の衛星。1655年オランダのホイヘンスによって発見された。タイタン、ティタンともいう。土星からの距離が平均122万1600キロメートルのほとんど円形の軌道を、15.9454日で公転している。チタンの直径は5150キロメートルで、土星の衛星では最大、太陽系の衛星中では木星のガニメデに次いで第二の大衛星である。ボイジャー探査機の観測により、おもに窒素からなる濃い大気(表面気圧およそ1.6気圧)があり、表面は褐色の霞(かすみ)に覆われていることがわかった。
[村山定男]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…金属工業のうち,比重の比較的小さい金属,すなわち軽金属を扱う工業。軽金属には,アルミニウム,マグネシウム,チタン,ベリリウム,リチウムなどがあるが,とくにアルミニウムは鉄に次いで生産量が多く,軽金属の代表であるので,ここではアルミニウム工業を中心に述べる。
[アルミニウム]
原鉱石(ボーキサイトなど)からアルミナAl2O3を製造する化学的工程と,その電解工程(アルミ1t当り約1万5000kWhを要する)の2過程を要する高度な電気化学工業で,その発達には苛性ソーダ,フッ化物,電力など関連工業の発達,高品位の原鉱石ボーキサイト(Al2O350%以上含有)と,豊富で安価な発電地帯を有することが条件となる。…
…望遠鏡の分解能がたりなかったため,耳のある惑星と記した。1655年C.ホイヘンスは衛星チタンを発見し,あわせて土星の耳が薄い平らな環であることを示した。環の面は土星の赤道面と一致しており,軌道面と26.゜73傾いているため,地球から見ると軌道上の位置によって開いたり消失したりする。…
※「チタン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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