改訂新版 世界大百科事典 「マーニッカバーサガル」の意味・わかりやすい解説
マーニッカバーサガル
Māṇikkavācakar
中世南インドのシバ教の代表的宗教詩人で神秘思想家。9世紀ころの人。6世紀以降に南インドで栄えたバクティ(信愛)運動の頂点に位置する。作品には,タミル文学の恋愛詩の技法を用いて神と人間との愛を描いた《ティルコーバイヤールTirukkōvaiyār》と,シバへのバクティを主題とする《ティルバーサガムTiruvācakam》があり,ともにシバ教の聖典《ティルムライTirumurai》(11世紀後半に完成)に収められている。なかでも,《ティルバーサガム》は世をいとってひたすら神に祈る人間の敬虔な姿と,それにこたえる神の愛を流麗にうたいあげたもので,バクティ文学中の最高傑作とされている。また,彼の作品は神秘的・哲学的色彩が濃厚で,南インドのシバ教団シャイバ・シッダーンタ(聖典シバ派)の思想体系の先駆をなすものとして,思想史的意義も少なくない。
→シバ派
執筆者:徳永 宗雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報