日本大百科全書(ニッポニカ) 「ユダ書」の意味・わかりやすい解説
ユダ書
ゆだしょ
『新約聖書』のなかの書簡の一つ。ユダの手紙ともいう。宛先(あてさき)が教会全般であるという意味で、「ヤコブ書」「ペテロ書」「ヨハネ書」とともに古くから公同の手紙とよばれている。反道徳的傾向をもつグノーシス主義的異端を激しく論駁(ろんばく)し、信徒に対して使徒たちの伝統的信仰を守ることを勧めている。著者は「ヤコブの兄弟であるユダ」(一節)と名のっている。『新約聖書』によると、ヤコブとユダはともにイエスの兄弟でもあるが(「マルコ伝福音書(ふくいんしょ)」6章3)、本書は、内容と背景からみて、紀元100年前後に教会のユダヤ人指導者が、文書に権威をもたせるためにイエスの兄弟の名前を用いて書いたものと思われる。執筆場所はギリシア、エジプト、小アジア、シリアなどと推測されているが、いずれも不確かである。
[川島貞雄]