日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペテロ書」の意味・わかりやすい解説
ペテロ書
ぺてろしょ
The Epistle of Peter
別名「ペテロの手紙」。『新約聖書』のなかの手紙で、ペテロ(ペトロ)が書いたとされている2通をまとめてこうよぶ。しかし、いずれも、ペテロに帰するにはかなり困難な点がある。第一の手紙は「ポント、ガラテヤ、カッパドキヤ、アジヤおよびビテニヤに離散し寄留している人たち」に向けられており、一種の回状とみなされるが、複数の手紙からの合成をここに想定する説もないわけではない。内容は、イエス・キリストを信じる者たちが迫害に対処するために必要なさまざまな訓戒を中心にしている。おそらく90年代にローマで執筆されたものであろう。それに対して第二の手紙は、受取人の所在地をはっきり記しておらず、信仰を同じくする人々に向けられたということしかわからない。内容は、放縦へ誘(いざな)い、終末を否定する異端の教えとの対決で、「ユダ書」と密接な関係を保っている。これは『新約聖書』のなかでもっとも後期に属する文書で、2世紀中ごろローマで執筆されたものと考えられる。
[土屋 博]