ヤコブ(読み)やこぶ(英語表記)Iakobos ギリシア語

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヤコブ」の意味・わかりやすい解説

ヤコブ
Ja'acōb; Jacob

旧約聖書中の人物。イスラエルともいい,イスラエル民族の祖。イサクラバンの妹リベカの子。ヤコブはイサクに愛されていた双生児の兄エサウから長子権を譲り受け (創世記 25・24~34) ,また彼を偏愛した母の策略に従って父を欺いて「もろもろの民はあなたに仕える」との祝福を受けた (同 27・1~29) 。さらに兄の復讐を避けるため母の故国ハランに逃れる途次ベテルにおいて夢のなかで神の祝福を受け,目ざめてのちアブラハム,イサクの神と同じ神をみずからの神とする誓いを立て,神の賜物の 10分の1を神に捧げることを約した (同 28・10~22) 。ハランにおいて彼はラバンの娘レア,ラケル姉妹と結婚,その子らはイスラエルの部族祖先となった。ヤボクの渡しで神と組打ちをしたことからイスラエル (「神と競う」「神が支配する」の意) と改名 (同 32・28) ,のち彼は飢饉のため食糧を求めてエジプトへおもむいたが,そこで国の司となっていた子ヨセフと再会して幸福な晩年を過した。遺言に従ってカナンのコムレ東方マクペラの墓地に葬られたという (同 49~50章) 。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤコブ」の意味・わかりやすい解説

ヤコブ(古代イスラエルの族長)
やこぶ
Jacob 英語
ya‘aqobh ヘブライ語

古代イスラエルの族長の1人。『旧約聖書』のうち主として「創世記」25章26節~49章33節において、ヤコブの生涯が語られる。彼は、イサクとリベカの間に生まれた双生児の一人で、手で兄エサウのかかとつかんで生まれ出たことにちなみ、その意味を指示するヘブライ語動詞「ヤコブ」と命名された(25章24節)。しかし父は兄を、母は弟ヤコブを偏愛した(25章28節)。そしてついにヤコブは、兄を押しのけ、その名のとおり長子権をつかんだ(25章31~33節、27章5~40節)。しかしこのために、兄の報復を避け、彼は長い旅に出ることになった(27章10節~33章20節)。そしてヤコブはこの旅において鍛え直され、ついに全イスラエル12部族の祖となったといわれる。

[定形日佐雄]


ヤコブ(イエスの兄弟)
やこぶ
Iakobos ギリシア語

イエス弟子である大ヤコブと区別され、通常小ヤコブとよばれる。『新約聖書』によれば、彼はイエスの兄弟であり(「マタイ伝福音(ふくいん)書」13章55節)、のちに「主の兄弟」とよばれた(「ガラテヤ書」1章19節)。彼は、母や他の兄弟たちと同様、イエスが神的霊力を有することを疑っていたが(「マルコ伝福音書」3章21、31、32節)、復活のイエスに会ってからイエスを主と仰ぐようになった(「使徒行伝(ぎょうでん)」1章14節、「コリント書―第一の手紙」9章5節、15章7節)。1世紀のユダヤの歴史家ヨセフスによれば、彼は紀元62年のユダヤ人暴動の際に殉教した。

[定形日佐雄]


ヤコブ(イエスの十二使徒の一人)
やこぶ
Iakobos ギリシア語

イエスの十二使徒の1人。通常大ヤコブとよばれ、『新約聖書』の主として「共観福音(ふくいん)書」が彼の生涯を断片的に伝える。彼はゼベダイの子で、父とともにガリラヤの漁夫であったが、イエスに召され、シモン(ペテロ)、アンデレ、ヨハネとともに最初の弟子となった(「マタイ伝福音書」4章21、22節、「マルコ伝福音書」1章16~20節)。彼とヨハネは激情的な性格のゆえにか(「ルカ伝福音書」9章54節)、「雷の子」というあだ名を得た。のちにヘロデ・アグリッパ王の迫害によって殉教した(「使徒行伝(ぎょうでん)」12章2節)。

[定形日佐雄]

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