化学辞典 第2版 「ヨウ素塩」の解説
ヨウ素塩
ヨウソエン
iodine salt
ヨウ素を陽イオンとして含む塩のこと.I2 の発煙硫酸溶液の性質や,IX型(Xは陰イオン)の化合物が単離されたことから,I+ の塩をヨウ素塩とした.ただし,共有結合性のR3Iなどの有機誘導体や,ハロゲン間化合物などは含めない.溶液中の I+ は,溶媒和した形(たとえば,[py2I]+)であり,溶媒和したイオンを含む安定な固体(たとえば,[py2I]+NO3-)も得られた.【Ⅰ】 I+:IX(X = CN,SCN,ClO4,NO3,CH3CO2など).硝酸ヨウ素(Ⅰ)(iodine(Ⅰ) nitrate)INO3(188.91)は,I2 のエタノール溶液に硝酸銀を反応させると生成する黄色の固体で,0 ℃ でも分解する.IClO4(227.36)は,純粋には得られていない.単塩の多くはむしろ共有結合性で,I+ は,求核性溶媒の溶液中などで溶媒和したInI+型イオンとなり安定化すると考えられる.なお,InI+型イオンを含む塩のいくつかは固体も得られている.たとえば,[py2I]+NO3-,[I(CH3CN)2]+(UF6)-,[I(CH3CN)]+(AsF6)-など.共有結合性のIClは,py溶液中では[py2I]+Cl-となる.【Ⅱ】(1)I3+:IX3(X = NO3,SCN,ClO4,CH3CO2,CHnCl(3-n)CO2(n = 1,2)など).たとえば,三硝酸ヨウ素(iodine(Ⅲ) trinitrate)I(NO3)3(312.92)は,エタノール中で I2 と,過剰のAgNO3との反応,またはClNO3とICl3との反応で得られる黄色の固体で,0 ℃ で分解する.I(ClO4)3(425.26)は,エーテル中でI2とClClO4との反応,低温で I2 とAgClO4との反応などで得られる無色の固体で,-45 ℃ 以上では不安定である.これらの多くは共有結合性のI-Oをもち,有機誘導体R3Iのような共有結合化合物に分類されるものである.I3+ が錯体の中心となる場合もある.たとえば,Cs[I(ClO4)4],[Bu4N]+[I(OTeF5)4]-,[(C6H5)2I]+X-などはその例である.(2)I5+:IX5もI(OTeF5)5,O=I(OTeF5)3などの化合物や,(Bu4N)[O=I(OTeF5)4]など,I5+ が中心の錯イオンが得られている.【Ⅲ】 I2+,I3+,I5+:I2+ は,HSO3F中で I2 をS2O6F2を酸化剤として,対イオン原料とともに反応させると得られる.I2+ では,I2 よりI-Iが短く(2.58 Å),伸縮振動数は大きい(ν約215 cm-1).これらの I2+ を含む化合物は固体でも安定で,[I2][Sb2F11]は融点127 ℃,[I2][Sb3F16]は融点85 ℃ である.I3+,I5+ としては
I2 + AsF5 → [I3]+ [AsF6]-(SO2 中)
I2 + ICl + AlCl3 → [I5]+ [AlCl4]-
などの化合物が得られている.【Ⅳ】そのほか,IF2+,ICl2+,IF4+,IF6+などの混合ハロゲン陽イオンも知られている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報