翻訳|solvent
溶体をつくる媒体,すなわち溶質を溶かすのに用いる成分を溶媒という。液体と,固体または気体とからなる溶液では,液体成分を溶媒という。液体と液体の溶液,固体と固体の溶体がつくられる場合は,多量に存在するほうを溶媒とみなす。普通は液体をさしていうことが多い。最も多くの物質を溶かしうる溶媒は水である。ほかにはメチルアルコール,エチルアルコールなどのアルコール類,ベンゼン,ベンジンなどの有機物が溶媒として用いられている。溶媒にはそれぞれ特有の性質がある。たとえば油や硫酸のように蒸発しにくい(蒸気圧が低い)性質,逆に揮発油やエーテルのように蒸発しやすい(蒸気圧が高い)性質,さらに水やアルコールのような有極性,ベンゼンや四塩化炭素のような無極性などの性質である。したがって溶液を作るときには,温度,圧力などや組み合わされる成分などの条件,溶質の性質などに応じて適当な溶媒を選択することが必要である。工業では溶剤ともいう。
→極性
執筆者:橋谷 卓成
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
溶体(溶液)の構成成分のうち、分量(分子数)の多いほうを溶媒という。これに対し少ないほうが溶質である。溶質を溶かすために用いる液体は、工学分野では「溶剤」とよぶ習わしであるが、それ以外の分野では溶媒のなかに含めてしまう。しかし、このような広義の場合を別とすれば、やはり溶媒と溶剤とは別のものである。たとえば、液性による吸収スペクトルの変化はやはり「溶媒効果」であり、「溶剤効果」はやや奇異である。溶媒は「溶液の中」におけるほうに主力点がある。溶媒和、溶媒化合物などもいずれも同様な例である。
溶媒はいろいろな分類法がある。極性溶媒と非極性溶媒に分けたり、「水」と「非水溶媒」とに区分したりするのはよく使われる分類法である。プロトン性溶媒と非プロトン性溶媒に分けることも行われる。水・液体アンモニアなど、解離して溶媒和プロトンをつくるものをプロトン性、液体二酸化硫黄(いおう)・塩化チオニルのように解離性のプロトンのないものを非プロトン性溶媒という。
溶媒の選択などには、いろいろな性質を指針とせざるをえない。誘電率、自己解離定数、溶解度パラメーター、その他種々の条件に適合した尺度が多数ある。
[山崎 昶]
『篠田耕三編『合成と溶解のための溶媒』(1969・丸善)』
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