改訂新版 世界大百科事典 「ラーマキエン」の意味・わかりやすい解説
ラーマキエン
Ramakian
古来東南アジアの人々に広く親しまれているインドの大叙事詩《ラーマーヤナ》のタイ語版。ラーマキエンとは〈ラーマの栄光〉の意。この物語はスコータイ朝時代(13~15世紀)すでに知られていて,王名にもしばしばラーマの名が付加されてきた。タークシン王本,ラーマ1世本,同2世本,同4世本,同5世本,同6世本があるが,中でもラーマ1世が1793年から詩人学者を集めてつくったもの(手冊本117巻,約6万7000行)が傑出しており,歌唱劇,コーン(仮面黙劇)のためにクローン(klon)詩の形式で書かれた古典文学史上最長の傑作の一つである。これはインドの《ビシュヌ・プラーナ》や《ハヌマーンナータカ》に通じたインド人のバラモンが,ベンガル系のサンスクリット本《ラーマーヤナ》を基に口述したものに,タイ的独創を加味しつつ流麗なタイのクローン詩に置き換えたものと思われる。なお,バンコクにあるワット・プラケオ(玉仏寺)の回廊に描かれたラーマキエン壁画のクローン(khlong)詩はラーマ5世の作である。
執筆者:冨田 竹二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報