ビシュヌ・プラーナ(読み)びしゅぬぷらーな(英語表記)Viupurāa

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビシュヌ・プラーナ」の意味・わかりやすい解説

ビシュヌ・プラーナ
びしゅぬぷらーな
Viupurāa

ヒンドゥー教プラーナ聖典群のなかで最古層に属するものの一つ。その名のとおりビシュヌ派に所属し、最高神ビシュヌに捧(ささ)げられた聖典である。全六巻からなる。聖仙バシシュタの孫パラーシャラとその弟子マイトレーヤとの対話をもって始まり、そのおもな内容としては、ビシュヌ神の讃歌(さんか)、宇宙の起源・創造についての神話、また宇宙の構造や周期的時間論、人類の祖マヌとその役割、ベーダの諸学派の伝統、ビシュヌ教徒の宗教生活、牧童クリシュナの伝説などを説く。さまざまな神話・伝説を盛り込みながら、最高神ビシュヌへの私心のない献身的な愛(バクティ)とその恩恵・功徳(くどく)をたたえる本書は、古来とくに愛好された聖典の一つであり、ビシュヌ派の教義・信仰の普及と同派の発展に大いに寄与した。

[矢島道彦]

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改訂新版 世界大百科事典 「ビシュヌ・プラーナ」の意味・わかりやすい解説

ビシュヌ・プラーナ
Viṣṇu Purāṇa

ヒンドゥー教ビシュヌ派,とくにパーンチャラートラ派の聖典で,6巻7000の詩節から成り,初期プラーナの形体を備えている。パラーシャラ仙と弟子マイトレーヤの対話の形で述べられ,世界の創造,マヌの世紀,日種および月種に属する王族の歴史,クリシュナの伝説,世界の破滅などの古伝,古い物語が説かれ,全般にクリシュナ崇拝の傾向が顕著である。他のプラーナに比し,寺院祭礼聖地に関する記載がなく,言語も古風な形を示し,プラーナ文献中古層に属する。
プラーナ
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ビシュヌ・プラーナ」の意味・わかりやすい解説

ビシュヌ・プラーナ
Viṣṇu-Purāṇa

ヒンドゥー教ビシュヌ派の聖典。成立年代の確定は困難であるが,18のプラーナ聖典のなかでも古い時代につくられたものと考えられ,6章から成り,プラーナ聖典の5つの特性に従って,世界の創造,神々の系譜,人類の始祖マヌの支配王朝の歴史などが説かれる。ビシュヌは唯一最高の神で,ブラフマーとシバの合一したものとされ,世界の創造者,維持者としてたたえられている。第1章の大洋攪拌の物語は叙事詩にも共通した話で,攪拌された乳海から浮び上がる幸運と美の女神シュリーがビシュヌの胸に身を投げかける情景が詩的に描写されている。

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世界大百科事典(旧版)内のビシュヌ・プラーナの言及

【ビシュヌ派】より

…この派の存在は,前5~前4世紀以降の文献などによって確かめられるが,その教義がまとまった形をとったのは,叙事詩《マハーバーラタ》の一部に組み込まれている《バガバッドギーター》においてである。また,この派に関連の深い文献としては,《マハーバーラタ》の付編として扱われている《ハリバンシャ》,および《ビシュヌ・プラーナ》《バーガバタ・プラーナ》などのプラーナなどがある。この派の神学はベーダーンタ派の哲学に基礎づけられることが多く,その神学別に,さらにマドバ派,ビシュヌスバーミン派,ニンバールカ派,バッラバ派,チャイタニヤ派などの支派が分岐した。…

【ヒンドゥー教】より

…宗派的色彩が濃厚で,だいたいビシュヌ派か,シバ派のいずれかに属している。18の大プラーナと18の副プラーナとが現存しているが,なかでも《ビシュヌ・プラーナ》と《バーガバタ・プラーナ》とがとくに尊重されている。(3)法典 法典中の白眉といわれる《マヌ法典》をはじめ,ヒンドゥー教徒の日常の行動を規定する多数の法典がある。…

※「ビシュヌ・プラーナ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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