クローン(読み)くろーん(英語表記)Leena Krohn

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クローン」の意味・わかりやすい解説

クローン
clone

単一の細胞または個体から無性的に増殖した遺伝的に同一の細胞・個体の集団。植物と動物の体細胞は,単一の受精卵有糸分裂からできたクローンであるから,クローニングは大半の動植物の根源的現象といえる。狭義には,親の一つの体細胞から育った遺伝的に同一の個体と定義できる。無性増殖する植物は,遺伝的に同一の個体すなわちクローンを生み出す。園芸では太古の昔からクローニングが行なわれてきた。挿し葉や挿木,株分けがそれで,果樹や観葉植物のほとんどがクローンである。成長した動物や人間の体細胞のクローニングは,研究施設で日常的に行なうことができるようになっている。筋肉細胞などさまざまな組織細胞を成体の動物から取り出して培養細胞分裂を続けさせることによって同一の細胞群をつくりだす。1950年代にはすでにカエルのクローンづくりが成功し,元のカエルとまったく同じ遺伝情報をもつクローン・カエルが生み出された。体細胞の核に含まれたデオキシリボ核酸 DNAを,除核した卵母細胞に移植する手法であった。この融合細胞が通常の受精卵と同じように細胞分裂し,から個体へと成長する。
1980年代にはクローン・ハツカネズミが誕生した。妊娠したハツカネズミの子宮から胚を取り出し,その体細胞の核を別のハツカネズミの除核した受精卵に移植し,この細胞を培養して胚にし,それを別のハツカネズミの子宮で成長させるという手法であった。成体の細胞からクローンをつくることははるかに難しい。動物のほぼすべての細胞には個体全体をつくりだす遺伝情報が含まれているが,すでに組織や器官に分化した細胞は,その複製に必要な遺伝情報しか伝えなくなる。そのためクローニングも,まだ血液や皮膚,骨などに分化していない胚細胞からにかぎられる傾向にあった。
成長した哺乳動物のクローンづくり(→クローン羊)に初めて成功したのは 1996年,イギリス,ロスリン研究所のイアン・ウィルムット博士率いる研究チームである。クローニングの実用化は経済的に有望視されている。畜産業者は高品質の家畜のクローンづくりを歓迎するだろうし,遺伝子組み換え動物のクローニングによって,薬あるいは治療に役立つ蛋白質の生産を増やすこともできよう。また生物学的研究にも,遺伝的に同一なクローンは大いに有用である。人間のクローンづくりは,倫理的・道徳的問題をはらんでいる。クローニングがある特定の遺伝的特性の複製を無限にもたらすものだとすれば,どの特性がそれに値するのか判断をくだす必要があり,それを託される人々は,人類の進化の道筋を変える立場に立つことになる。DNA組み換え技術遺伝子操作への応用は,遺伝子クローニングとも呼ばれる。

クローン
Krohn, Kaarle

[生]1863
[没]1933
フィンランドの民族学者。フィンランドの民族叙事詩『カレワラ』の研究に従事し,その方法を確立,発展させた。『カレワラ研究』 Kalevalastudien (6巻,1924~28) ,『民俗学方法論』 Die folkloristische Arbeitsmethode (26) などの著書がある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クローン」の意味・わかりやすい解説

クローン(生物)
くろーん
clone

同じ遺伝組成をもった細胞または個体の集団。クローンをつくるための繁殖法はつねに非交雑的であるから、これを分枝系または栄養系ともいう。植物の1個体から挿木や取木などによって栄養繁殖的に生じた個体集団を元来クローンとよんだが、動物においても組織培養で1個の細胞から生じた細胞集団を、また菌類や細菌類でも単胞子培養で得られた細胞集団をクローンという。クローンによって得られた細胞または個体集団は、交配による遺伝子の交換がおこっていないので、突然変異がおこらない限り遺伝子型も表現型も一定に保たれている。植物では品種の保存管理によく利用されている。1987年にはアメリカで哺乳(ほにゅう)動物(ウシ)の受精卵を取り出し、機械的に個々の細胞に分割し、各分割卵を発育させてクローンをつくることに成功、1996年にはイギリスで体細胞利用によるクローン羊が誕生した。

[吉田俊秀]


クローン(Leena Krohn)
くろーん
Leena Krohn
(1947― )

フィンランドの女性小説家。大学で、文学、心理学、哲学を学び、その後、図書館員を経て執筆活動を開始する。代表的な小説『ウンブラ』Umbra(1990)では、医師ウンブラの日常の生活を通して、矛盾に満ちた現代社会をコミカルに描いている。現実を童話や寓話(ぐうわ)のように幻想的に描く魔(術)的リアリズムの手法で、フィンランド政府文学賞(1989)やフィンランディア文学賞(1993)などを受賞するなど国内外から高い評価を得ている。そのほかに、『タイナロン』Tainaron(1985)、『摩擦音』Rapina(1989)、『秘め事』Salaisuuksia(1992)、『木々は8月に何をするのか』Mitä puut tekevät elokuussa(2000)などの小説を著している。

[末延 淳]

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