折れ曲がって区画を囲む細長い廊下をいう。社寺では聖域を囲む。歩廊(ほろう)、廡廊(ぶろう)ともいう。梁間(はりま)が1間のものを単廊(たんろう)、2間のものを複廊(ふくろう)とよび、単廊では一般に外側が連子(れんじ)窓、内側が吹放しとなり、複廊では外側、内側とも吹放し、中央の柱筋が壁か窓になる。法隆寺回廊は単廊、春日(かすが)大社回廊は複廊である。回廊から回廊で囲まれた建物に連絡する渡廊(わたろう)を軒廊(こんろう)とよぶ。傾斜地に建つものを登廊(のぼりろう)ともいう。社寺の回廊は土間の場合が多く、要所に楽門(がくもん)が開かれる。回廊は通路として用いられるが、行事の際は参列者の場となる。
[工藤圭章]
ヨーロッパ建築においては建築物の内外部に巡らされた、直線または曲線をなす通路としての柱廊(コロネード)、周歩廊(アンビュラトリー)、歩廊(クロイスター)がこれにあたる。古代エジプトでは第11王朝のデル・エル・バハリ葬祭殿の、小型ピラミッドをのせた二重の基壇に柱廊の初期の事例がみられる。第18王朝のルクソール大神殿には、柱廊の全容がほぼ完全に保存されており、これが、古代ギリシア神殿の典型的プランをなす周柱式柱廊の先駆とみなされる。ギリシアの都市国家(ポリス)の中心には公共広場(アゴラ)が設けられるが、そのなかでもっとも重要な施設は、ストアとよばれる直射日光を避けるための柱廊を主体とした建築物である。これは古代ローマの公共広場(フォルム)にも伝承されている。7世紀以降の聖堂建築に現れた周歩廊は、祭室を囲んで放射状に配置された礼拝堂群への接近を容易ならしめるべく側廊が延長されたものである。また僧院の中庭を囲む歩廊の起源はより古く、5世紀までさかのぼるが、ここには独居室、図書室、食堂などが設けられ、修道士たちの生活圏の中核をなしている。この種の歩廊はルネサンス時代の僧院はもちろん、都市建築にも応用された。また新しい都市計画の気運が高まるにつれ、モニュメンタルな建築物の前に公共広場(ピアッツァ)の整備がなされるが、広場を囲む柱廊の透視効果によって、その建築物の外観を引き立たせることに成功した。代表的な事例としては、ミケランジェロの設計によるローマのカンピドリオ広場と、ベルニーニによるバチカンのサン・ピエトロ広場の柱廊があげられる。
[濱谷勝也]
宗教建築や宮殿などで,主要な堂や殿舎を囲う屋根付きの廊下。中国の都城の制をならった日本古代の宮城では,朝堂院,内裏などの周囲を囲い,7世紀の寺院では金堂および塔などからなる一郭が囲われたが,8世紀以後,諸大寺の多くでは金堂の前庭を囲った。古代末には,これらにならって神社にも回廊を用いるようになった。
キリスト教建築では,修道院内の中庭を囲む屋根付き列柱歩廊をさし,英語でクロイスターcloisterともいう。通例教会堂の南側ないし北側に接して位置し,周縁には大寝室,大食堂,厨房,集会室,貯蔵庫,修道士個室等が配され,教会堂とともに修道院建築の中心施設をなす。聖務日課に規定された巡回行進礼の通路として発達し,修道士の瞑想と読書の場としても活用された。4~6世紀のビザンティンの修道院にその原形がみられるが,明確な配置形式はベネディクト会の修道院建設,とくにカロリング朝時代のそれを通じて確立された。宗教建築物の石造化がはじまった初期ロマネスク時代には,むしろ教会堂に先立って回廊が石造化され,交差ボールトの天井,中庭側でそれを支えるアーチと列柱,その下の低い腰壁,通路の舗石という意匠が定着した。盛期ロマネスク時代以降,石彫技術の進歩とともに,回廊の部材とくに列柱の柱頭にはさまざまな彫刻が施され,後期ゴシック時代にはアーチに華麗な透し彫装飾をもつ例がみられる。中庭には十字形(時に対角線方向の十字形)通路およびその中央に水盤ないし屋根付き井戸が設けられ,植栽が施された。
執筆者:日高 健一郎
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…春日大社や賀茂両社のように平安時代に盛大な祭りが行われ,貴族の参詣の多かった神社では,社頭に祭使たちの席となる建物や直会殿(なおらいどの)などが設けられた。平安時代にはさらに楼門,回廊が石清水八幡宮,賀茂両社,春日大社などに見られ,これらは単に神域を区切るだけでなく,とくに回廊は祭典執行の際の神官たちの着座の場所となり,神殿前で行われる奉幣や舞楽を見る場所ともなった。また同じころ神殿前に幣殿,舞殿がようやく出現する。…
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[日本]
中世までは,建物内部の廊下はまれで,建物をつなぐためのものが一般的であり,たんに廊と呼ぶことが多かった。寺院や内裏では,中庭を囲んで門や建物を結ぶ回廊が設けられた。回廊は床が土間で,一方の側面だけを壁や連子窓(れんじまど)にするものが多く,紫宸殿の南庭を囲む回廊は軒廊(こんろう)と呼ばれた。…
※「回廊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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