コーン(読み)こーん(英語表記)Jonas Cohn

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コーン」の意味・わかりやすい解説

コーン
Kohn, Walter

[生]1923.3.9. オーストリアウィーン
[没]2016.4.19. アメリカ合衆国,カリフォルニア,サンタバーバラ
オーストリア生まれのアメリカ合衆国の理論物理学者。1938年のドイツによるオーストリア併合(→アンシュルス)後,イギリスに亡命。のちにカナダに移住し,1946年トロント大学で修士号を取得。1948年ハーバード大学で博士号を取得し,1950年まで同大学で教鞭をとった。1950~60年カーネギー科学技術研究所(今日のカーネギーメロン大学)教授,1960~79年カリフォルニア大学サンディエゴ校教授。1979年同大学サンタバーバラ校理論物理学部(今日のカブリ研究機構)の創設に携わり,1984~91年同校物理学部教授。1960年代,固体中の分子量子力学的に記述するには電子密度を知れば十分であることを示し,この密度を決定するための密度汎関数法を開発。この理論がその後の化学解析に革命的な進歩をもたらし,巨大分子の幾何学的構造の計算や化学反応経路の図式化などを容易にした。1988年ナショナル・メダル・オブ・サイエンスを受賞。量子化学の分野に計算機科学的手法を導入し,コンピュータ・プログラムを開発したジョン・A.ポープルとともに,1998年ノーベル化学賞(→ノーベル賞)を受賞。(→理論物理学

コーン
Cohn, Ferdinand Julius

[生]1828.1.24. ブレスラウ(現ポーランド,ウロツワフ)
[没]1898.6.25. ブレスラウ(現ポーランド,ウロツワフ)
ドイツの植物学者。細菌学の基礎をつくった一人。ユダヤ系商人の息子として生れる。ブレスラウ大学に入学するが,人種上の理由で学位が取れないため,ベルリン大学に移って,1847年学位を取得。ブレスラウ大学講師 (1850) ,教授 (57) 。植物の種子の生理やジャガイモの蛋白質などについて研究。 70年より『植物学雑誌』 Beiträge zur Biologie der Pflanzenの編集者となり,同誌上に数々の研究業績を発表する。当時はまだ自然発生説の信奉者がおり,彼らは殺菌のため加熱した乾草のしぼり汁の中に細菌が発生することを重要な論拠としていたが,コーンは枯草菌が胞子を形成することを発見 (75) ,さらに枯草菌胞子が加熱されても死なないことを明らかにして (77) ,自然発生にみえた現象が殺菌の不完全さによるものであったことを示した。 76年には,無名の医師であった R.コッホによる脾脱疽菌の研究の意義を認め,支援した。また,形態や生理に基づいて細菌をいくつかの種に分類することができるとの考え方を示したことも,コーンの重要な業績の一つである。

コーン
Khon

タイの仮面舞踊劇。宮廷で上演されていた影絵芝居ナン・ヤイから発達したもので,人形遣いが行う動作を模倣したとされる。スクリーン前での上演を特にコーン・ナー・チョといい,その演出形態は今日まで残されている。古来,すべて男性によって演じられてきたが,ラコーン・ナーイが宮廷で盛んに上演されるようになってからは,コーンも少なからず影響を受け,ラコーン・ナーイの歌詞を取入れたり,シーター姫を女性が演じるようになった。女性役を除いてすべて仮面をかぶったが,ラーマ6世統治 (20世紀初頭) の頃から神や王族の演者は仮面をつけなくなり,化粧をするようになった。現在では魔神,猿族 (→ハヌマーン ) ,動物役だけが仮面をつける。またラーム (ラーマ) 王子,ラック (ラクシュマナ) 王子は若く顔形が整っている男性が演じる。動作はゆるやかで様式化されており,歌舞伎の見得のような型もみられる。音楽は木琴のラナート・エクを中心としたピーパット編成。

コーン
Cone, James H.

[生]1938.8.5. フォーダイス
アメリカの代表的黒人解放の神学者。 10歳のときに黒人教会であるマセドニアン・アフリカン・メソジスト監督教会の会員となり,弱冠 16歳でその牧師となった。ギャレット神学大学で学び,ノースウェスタン大学で K.バルトの人間論に関する論文で博士号を取得 (1963) 。アーカンソー州のフィランダー・スミス大学,アドリアン大学などを経て,ニューヨーク市のユニオン神学校教授,1975,79年に来日。イエス・キリストの福音を抑圧からの解放という視点からとらえ,神を被抑圧者の神としてとらえる理解は,独自な黒人解放の神学として展開されている。主著は『解放の神学』 Black Theology and Black Power (69) ,『抑圧された者の神』 The God of the Oppressed (75) など。

コーン
Cohn, Jonas

[生]1869.12.2. ガルリッツ
[没]1947.1.12. バーミンガム
ドイツの哲学者,美学者。フライブルク大学教授。新カント派のなかの西南ドイツ学派に属し,H.リッケルトに近い立場から出発したが,のち新ヘーゲル派の立場に立ち,「批判的弁証法」を主張した。美学の分野では美的価値領域の境界設定を試みた。主著"AllgemeineÄsthetik" (1901) ,"Theorie der Dialektik" (23) ,"Der deutsche Idealismus" (23) ,"Wirklichkeit als Aufgabe" (55) 。

コーン
Cohn, Gustav

[生]1840.12.12. マリエンベルダー(現ポーランド,クビージニ)
[没]1918.9.20. ゲッティンゲン
ドイツの経済学者。新歴史学派の一人。ベルリン,イェナ両大学に学び,リガ工業大学教授 (1869~72) 。その後イギリスに渡り,イギリス鉄道史を研究。次いでチューリヒ大学教授 (75~84) を経て,1884年以降ゲッティンゲン大学教授。経済生活における倫理的要素と社会心理的要素を重視し,古典派の理論に歴史的,社会的視点を導入しようとした。主著『国民経済学体系』 System der Nationalökonomie (3巻,85~98) 。

コーン
Kohn, Hans

[生]1891.9.15. プラハ
[没]1971.3.17. フィラデルフィア
チェコスロバキア生れのアメリカの歴史学者,政治学者。第1次世界大戦後アメリカに渡り,スミス大学,プリンストン大学などで教壇に立った。ナショナリズムの研究家として知られ,『ナショナリズム』 Nationalismus (1922) ,『ナショナリズムの思想』 The Idea of Nationalism (51) ,『ナショナリズム-その意味と歴史』 Nationalism: It's Meaning and History (55) など多くの著述がある。

コーン
Cohn, Edwin Joseph

[生]1892.12.17. ニューヨーク
[没]1953.10.1. ボストン
アメリカの生化学者。シカゴ大学,コペンハーゲン大学に学び,ハーバード大学医学部で研究を続けた。血漿中のいろいろな蛋白質を分離する方法を創案した。これは「コーン血漿蛋白分画法」といわれる。この方法によって血漿成分を治療に利用することが可能となった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「コーン」の意味・わかりやすい解説

コーン(Walter Kohn)
こーん
Walter Kohn
(1923―2016)

アメリカの理論物理学者。1923年オーストリアのウィーンでユダヤ人の中流家庭に生まれる。両親をナチスによるユダヤ人迫害により失う。イギリス、カナダで疎開生活を送り、トロント大学に入学。1944~1945年カナダ軍に加わり、1945年トロント大学を卒業。ハーバード大学に進学し物理学を専攻、1948年に博士号を取得後、カナダに帰化。1950年ピッツバーグのカーネギー工科大学(現、カーネギー・メロン大学)教授。1957年アメリカに帰化し、1960年カリフォルニア大学サン・ディエゴ校教授。1979年よりカリフォルニア大学サンタ・バーバラ校理論物理研究所長、1984年同大学教授となる。

 固相物理や多体問題の研究などを経て、1960年代に密度汎関数理論(みつどはんかんすうりろん)を開発した。それまでは分子の量子化学的な構造、性質を知るためには莫大な量の計算が必要であったが、分子中の電子の密度を関数とみなすことで、そのエネルギー状態をより実用的に計算できるようにした。この功績により、1998年のノーベル化学賞を受賞した。なお、量子化学における計算プログラムを開発したJ・ポープルとの同時受賞であった。

[馬場錬成]


コーン(Hans Kohn)
こーん
Hans Kohn
(1891―1971)

歴史家。チェコの首都プラハに生まれる。とくにナショナリズムの運動や理論の研究者として著名。20世紀前半のチェコスロバキアが多年にわたってドイツとの民族闘争を行っていたことが、大学時代の彼にナショナリズムに対する関心を抱かせた。第一次世界大戦に従軍し、シベリアで一時期捕虜生活を送った際にロシアの社会、文明、民族問題に接する。1925年にエルサレムへ行き中東、西アジアのナショナリズム運動を研究、34年にスミス・カレッジのヨーロッパ近代史の教授となり、62年ニューヨーク市立大学の教授を退任後も、ヨーロッパ、アメリカの各地で教鞭(きょうべん)をとりながら研究を続けた。彼は、近代思想の二つの柱ともいうべき自由主義とナショナリズムの観点から、多民族国家を比較し、貴重な研究を多数残している。著に『ナショナリズムの思想』(1944)をはじめ、『預言者と民衆――19世紀ナショナリズムの研究』(1946)、『現代ロシアの精神』(1955)、『ドイツの精神』(1961)、『ハプスブルク帝国、1804―1918年』(1961)、『絶対主義と民主主義、1814―1852年』(1965)などがある。

[田中 浩]

『長谷川松治訳『民族的使命――ヨーロッパ・ナショナリズム論考』(1953・みすず書房)』『稲野強他訳『ハプスブルク帝国史入門』(1982・恒文社)』


コーン(Jonas Cohn)
こーん
Jonas Cohn
(1869―1947)

ドイツの哲学者、心理学者。ゲルリッツで生まれ、1901年以降フライブルク大学教授を務めたが、1933年イギリスに亡命し、バーミンガムにて没した。バーデン(西南ドイツ)学派の代表者の一人として、世界が客観的、合理的体系ではなく、思考と行為の媒介を通じて形成されるとみる、批判的弁証法の立場を主張する。こうして世界の諸価値についての哲学、『価値学』Wertwissenschaft(1932)を提唱した。一方で実験心理学者として、色彩と感情との相関を分析し、これに基づいて『一般美学』Allgemeine Ästhetik(1901)なども著した。

[西村清和]

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