日本大百科全書(ニッポニカ) 「エノール形」の意味・わかりやすい解説
エノール形
えのーるがた
enol form
ケト‐エノール互変異性現象を示す化合物の互変異性体の一種。C=C二重結合(エチレン結合)の不飽和炭素原子上にヒドロキシ基-OHが結合している構造で、アルデヒドやケトンの互変異性形である。「enolエノール」という名前は、二重結合を表す「eneエン」にアルコールを表す「olオール」をつけ加えて作られた名前である。これに対して、カルボニル構造の互変異性形をケト形という( )。
アセトアルデヒドやアセトンのように、他にカルボニル基をもたない簡単なカルボニル化合物では、上式のアセトアルデヒドの例のように、平衡はケト形に偏っていて、エノール形はごくわずかしか存在しない。けれどもβ(ベータ)-ジカルボニル化合物であるアセチルアセトンでは一方のカルボニル基は80%以上エノール形として存在する。一般に、R-C(=O)-CHR'-C(=O)-R"の構造をもつβ-ジカルボニル化合物は簡単なアルデヒドやケトンに比べてエノール形をとりやすいことが知られている。エノール形の存在は塩化鉄(Ⅲ)水溶液を加えると紫青色になる呈色反応により調べることができる。
エノールのヒドロキシ基はアルコールに比べて酸性が強いので強いアルカリを作用させると塩になる。この塩は「エノラートenolate」とよばれている( )。
[廣田 穰]