翻訳|tautomerism
一つの化合物が容易に一方から他に相互変換しうる2種以上の異性体として存在する現象。トートメリーともいう。この種の異性体を互変異性体といい、速やかに相互変換しているので、一方だけを分けて取り出すことはむずかしい。ほとんどすべての場合に水素原子の結合位置が異なる異性体である。互変異性としてもっともよく知られているのはケト‐エノール互変異性であり、β(ベータ)-ジカルボニル化合物に広くみられる。たとえば、アセト酢酸エチルはケト形とエノール形の平衡混合物であり、相互に容易に変換し、両方の形の反応性を示す。
すなわち、ケト形はケトンのカルボニル基をもつのでオキシムやフェニルヒドラゾンを生成し、他方エノール形は炭素‐炭素二重結合(C=C)をもつので臭素の付加反応がおこる。また、エノール形のヒドロキシ基(水酸基)は塩化鉄(Ⅲ)による呈色反応を行う。
このほかに、2-ヒドロキシピリジンも2-ピリドンと互変異性体の関係にある。
この種の互変異性体は核酸塩基にもみられ、生体中でも重要な役割を演じている。
[廣田 穰]
相互変換できる構造異性体間に平衡が存在する場合,この現象を互変異性という.互変異性にある構造異性体は,互いに互変異性体(tautomer)であるという.互変異性は,以下に述べるように,プロトン互変異性と,原子価異性に分けられる.【Ⅰ】プロトン互変異性:ある分子中の水素原子の結合位置が異なることによって生じる互変異性.もっとも代表的な例が,アルデヒドやケトンにおけるケト形とエノール形の間の互変異性(ケト-エノール互変異性)である.アセチルアセトンやアセト酢酸エチルなどの活性メチレン化合物にみられ,次のようにケト形とエノール形の2種類の異性体が存在する.
エノール形は分子内水素結合(キレート環)をつくっているため極性が小さく,蒸留直後のアセチルアセトンはほとんど純粋なエノール形である.しかし,放置するとしだいにケト形が生じ,平衡混合物になる(常温でエノール形80%,ケト形20%).このほかプロトン互変異性には,イミン-エナミン間,ニトロソ-オキシム間,ニトロ-aci-ニトロ間などがある.
【Ⅱ】原子価異性:結合の位置だけが異なることによって生じる互変異性.たとえば,シクロヘプタトリエンとノルカラジエンとの平衡.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
構造異性体間のエネルギー差が小さく,相互変換が原子または原子団(おもにプロトン)の移動をともなって起こるとき,これらを互変異性体といい,この現象を互変異性トートメリー,ケト・エノール互変異性などという。アセト酢酸エチルと呼ばれている化合物は1863年に発見されたが,この化合物の性質に関するいくつかの報告は必ずしも一致しなかった。その原因はこの化合物が二つの構造の平衡状態にあることがしだいに明らかとなった。85年ラールP.C.Laarは同一を意味するギリシア語tautoにちなんで互変異性tautomerismと命名した。ヤコブセンP.Jacobsenが提案したデスモトロピーdesmotropismという用語はあまり用いられなかった。ラールはアセト酢酸エチルの二つの構造は水素原子の移動によってケト形とエノール形の間の平衡にあることを示した。
一つの化合物が二つの構造でよりよく表される互変異性はアセト酢酸エチルのような1,3-ジカルボニル化合物だけではない。おもな例を次に示す。
二つの互変異性体の存在比は化合物によって著しく異なる。アセトンなどの通常のケトンにもエノール形が存在するが,その存在比は1%以下である。
執筆者:竹内 敬人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…プロピルアルコールの-OH基の位置による二つの異性体,キシレンの-CH3基の位置による三つの異性体がよく知られた例である。互変異性tautomerismとは化合物の一部(原子または原子団)の移動が低いエネルギー障壁で起こる結果生じる異性で,プロトンH+が移動する場合が多い。原子価異性valence tautomerismでは,二つの異性体は結合電子の一部の再配列によって相互変換できる。…
…プロピルアルコールの-OH基の位置による二つの異性体,キシレンの-CH3基の位置による三つの異性体がよく知られた例である。互変異性tautomerismとは化合物の一部(原子または原子団)の移動が低いエネルギー障壁で起こる結果生じる異性で,プロトンH+が移動する場合が多い。原子価異性valence tautomerismでは,二つの異性体は結合電子の一部の再配列によって相互変換できる。…
※「互変異性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、和歌山県串本町の民間発射場「スペースポート紀伊」から打ち上げる。同社は契約から打ち上げまでの期間で世界最短を目指すとし、将来的には...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新