互変異性(読み)ゴヘンイセイ

化学辞典 第2版「互変異性」の解説

互変異性
ゴヘンイセイ
tautomerism

相互変換できる構造異性体間に平衡が存在する場合,この現象を互変異性という.互変異性にある構造異性体は,互いに互変異性体(tautomer)であるという.互変異性は,以下に述べるように,プロトン互変異性と,原子価異性に分けられる.【】プロトン互変異性:ある分子中の水素原子結合位置が異なることによって生じる互変異性.もっとも代表的な例が,アルデヒドケトンにおけるケト形エノール形の間の互変異性(ケト-エノール互変異性)である.アセチルアセトンアセト酢酸エチルなどの活性メチレン化合物にみられ,次のようにケト形とエノール形の2種類の異性体が存在する.

エノール形は分子内水素結合(キレート環)をつくっているため極性が小さく,蒸留直後のアセチルアセトンはほとんど純粋なエノール形である.しかし,放置するとしだいにケト形が生じ,平衡混合物になる(常温でエノール形80%,ケト形20%).このほかプロトン互変異性には,イミン-エナミン間,ニトロソ-オキシム間,ニトロ-aci-ニトロ間などがある.

】原子価異性:結合の位置だけが異なることによって生じる互変異性.たとえば,シクロヘプタトリエンとノルカラジエンとの平衡.

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日本大百科全書(ニッポニカ)「互変異性」の解説

互変異性
ごへんいせい
tautomerism

一つの化合物が容易に一方から他に相互変換しうる2種以上の異性体として存在する現象。トートメリーともいう。この種の異性体を互変異性体といい、速やかに相互変換しているので、一方だけを分けて取り出すことはむずかしい。ほとんどすべての場合に水素原子の結合位置が異なる異性体である。互変異性としてもっともよく知られているのはケト‐エノール互変異性であり、β(ベータ)-ジカルボニル化合物に広くみられる。たとえば、アセト酢酸エチルはケト形とエノール形の平衡混合物であり、相互に容易に変換し、両方の形の反応性を示す。


すなわち、ケト形はケトンのカルボニル基をもつのでオキシムやフェニルヒドラゾンを生成し、他方エノール形は炭素‐炭素二重結合(C=C)をもつので臭素の付加反応がおこる。また、エノール形のヒドロキシ基(水酸基)は塩化鉄(Ⅲ)による呈色反応を行う。

 このほかに、2-ヒドロキシピリジンも2-ピリドンと互変異性体の関係にある。


この種の互変異性体は核酸塩基にもみられ、生体中でも重要な役割を演じている。

[廣田 穰]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「互変異性」の解説

互変異性
ごへんいせい
tautomerism

化合物が2種の異性体として存在し,それぞれの分子内の原子の結合位置が異なっている異性現象。構造異性に属するとも考えられるが,異性体間のエネルギー差が小さく,室温で容易に相互に変換するため各異性体を分離することが困難である。水素原子の移動によって異性体間の変換が起る場合が多く,注意して精製すれば2種の異性体を分離することができる。互変異性と混同されやすいものに共鳴があるが,これとは本質的に異なる。また互変異性は原子が結合を離れて移動し,異なった結合の仕方をするという点で回転異性とは異なる。回転異性体は一般に異性体間のエネルギー差がさらに小さく,相互分離が不可能である。最もよく知られている互変異性にアセト酢酸エステルにみられるようなケトエノール互変異性があるが,ほかに環鎖互変異性および核内互変異性がある。

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百科事典マイペディア「互変異性」の解説

互変異性【ごへんいせい】

ある化合物が互いに変換することのできる2種の異性体として存在する現象。たとえばアセト酢酸エチルはケト型とエノール型の平衡混合物であって,双方はたやすく変換し合い,反応するときは相手に応じてそのいずれかで反応する(ケト・エノール互変異性)。(図)
→関連項目アセト酢酸エチル異性

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精選版 日本国語大辞典「互変異性」の解説

ごへん‐いせい【互変異性】

〘名〙 ある化合物が、分子構造中の少なくとも一個の原子の相対的位置が異なることによって一対の異性体となり、互いに容易に転移、変換する異性現象。アセト酢酸エチルがケト形とエノール形の平衡混合物となっているなどはその例。不飽和結合をもつ化合物にみられる。

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デジタル大辞泉「互変異性」の解説

ごへん‐いせい【互変異性】

ある化合物が、互いに容易に変換しうる2種以上の異性体として存在する現象。例えば、アセト酢酸エチルは2種の異性体、ケト形とエノール形があり、結合位置を変えることによって相互変換する。

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世界大百科事典 第2版「互変異性」の解説

ごへんいせい【互変異性 tautomerism】

構造異性体間のエネルギー差が小さく,相互変換が原子または原子団(おもにプロトン)の移動をともなって起こるとき,これらを互変異性体といい,この現象を互変異性トートメリー,ケト・エノール互変異性などという。アセト酢酸エチルとよばれている化合物は1863年に発見されたが,この化合物の性質に関するいくつかの報告は必ずしも一致しなかった。その原因はこの化合物が二つの構造の平衡状態にあることがしだいに明らかとなった。

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世界大百科事典内の互変異性の言及

【構造異性】より

…プロピルアルコールの-OH基の位置による二つの異性体,キシレンの-CH3基の位置による三つの異性体がよく知られた例である。互変異性tautomerismとは化合物の一部(原子または原子団)の移動が低いエネルギー障壁で起こる結果生じる異性で,プロトンHが移動する場合が多い。原子価異性valence tautomerismでは,二つの異性体は結合電子の一部の再配列によって相互変換できる。…

【構造異性】より

…プロピルアルコールの-OH基の位置による二つの異性体,キシレンの-CH3基の位置による三つの異性体がよく知られた例である。互変異性tautomerismとは化合物の一部(原子または原子団)の移動が低いエネルギー障壁で起こる結果生じる異性で,プロトンHが移動する場合が多い。原子価異性valence tautomerismでは,二つの異性体は結合電子の一部の再配列によって相互変換できる。…

※「互変異性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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