カイエ・デュ・シネマ(読み)かいえでゅしねま

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カイエ・デュ・シネマ」の意味・わかりやすい解説

カイエ・デュ・シネマ
かいえでゅしねま
Cahiers du Cinéma

フランスの映画批評誌。『ラ・ルビュ・デュ・シネマ』誌が1949年に廃刊になったあとを受けて、アンドレバザン、ジャック・ドニオル・バルクローズJacques Doniol-Valcroze(1920―1989)、ジョゼフ・マリー・ロ・デュカJoseph-Marie Lo Duca(1910―2004)を中心に1951年に創刊された。エリック・ロメール、ジャック・リベットJacques Rivette(1928―2016)、ジャン・リュック・ゴダールフランソワトリュフォー、クロード・シャブロルら若い同人が参加し、1950年代なかば以降は「作家主義」の戦略によって挑発的な映画批評を展開した。1950年代末には監督としてデビューする同人も多く、彼らはヌーベル・バーグとよばれた。1968年の5月革命から1970年代にかけての「異議申し立て」の時代には、カイエのライバルで、同じく戦闘的な『シネティック』誌と並んで、唯物史観と精神分析学に基づいたイデオロギー論争を展開した。時代とともに、また編集長の交代によって方向性は変化しているが、現在でも活気に満ちた映画批評誌として存続している。

[伊津野知多]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のカイエ・デュ・シネマの言及

【ゴダール】より

…パリ生れのフランス人だが,〈兵役忌避のために〉スイス国籍をとる。クロード・シャブロル,トリュフォーに次いで,アンドレ・バザンの主宰する映画研究誌《カイエ・デュ・シネマ》の批評家から映画監督となる。長編第1作《勝手にしやがれ》(1959)は,カメラが現場で一瞬,一瞬すべてを創造していく新鮮な即興演出,カットつなぎを無視した大胆な編集,インタビューやモノローグをまじえた多彩な映像と言語の引用によるコラージュ的な構成などで人々に衝撃を与えた。…

【トリュフォー】より

…15歳のときにシネクラブ〈ル・セルクル・シネマヌ〉を主宰し,トリュフォー自身が〈精神的な父親〉と呼ぶ映画批評家アンドレ・バザンAndré Bazin(1918‐58)と知り合う。バザンのすすめで1951年に創刊された映画批評誌《カイエ・デュ・シネマ》に筆をとり,また週刊誌《アール》の映画批評欄でも,当時のフランス映画の〈名匠〉たちを否定するしんらつな筆をふるって〈フランス映画の墓掘り人〉とあだ名された。58年,ジャン・ルノアール監督の《黄金の馬車(ル・キャロッス・ドール)》から名まえをとった映画製作会社レ・フィルム・デュ・キャロッスを興し,短編《あこがれ》を発表(以後,作品はすべてこの自分の会社によって製作し,作家の独立性を守った)。…

【ヌーベル・バーグ】より

…58年には14人,59年には22人の新人監督が長編映画の第1作を撮るという,かつてない激しい映画的波動がわき起こり,さらに60年には43人もの新人監督がデビュー,アメリカの雑誌《ライフ》が8ページの〈ヌーベル・バーグ〉特集を組むに至って,世界的な映画現象として認識されることになった。 こうしたフランス映画の若返りの背景には,国家単位で映画産業を保護育成する目的で第2次世界大戦後につくられたCNC(フランス中央映画庁)の助成金制度が新人監督育成に向かって適用されたという事情があるが,その傾向を促すもっとも大きな刺激になったのが,山師的なプロデューサー,ラウール・レビRaoul Lévy(1922‐66)の製作によるロジェ・バディムRoger Vadim(1928‐ )監督の処女作《素直な悪女》(1956)の世界的なヒット,自分の財産で完全な自由を得て企画・製作したルイ・マルLouis Malle(1932‐95)監督の処女作《死刑台のエレベーター》(1957)の成功,そしてジャン・ピエール・メルビル監督の《海の沈黙》(1948)とアニェス・バルダ監督の《ラ・ポワント・クールト》(1955)の例にならった〈カイエ・デュ・シネマ派〉の自主製作映画の成功――クロード・シャブロルClaude Chabrol(1930‐ )監督の処女作《美しきセルジュ》(1958),フランソワ・トリュフォー監督の長編第1作《大人は判ってくれない》(1959),ジャン・リュック・ゴダール監督の長編第1作《勝手にしやがれ》(1959)――であった。スターを使い,撮影所にセットを組んで撮られた従来の映画の1/5の製作費でつくられたスターなし,オール・ロケの新人監督の作品が次々にヒットし,外国にも売れたのであった。…

※「カイエ・デュ・シネマ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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