ロメール(読み)ろめーる(英語表記)Eric Rohmer

デジタル大辞泉 「ロメール」の意味・読み・例文・類語

ロメール(Éric Rohmer)

[1920~2010]フランス映画監督。教師・映画誌編集を経て、1959年に長編第1作「獅子座」を監督。トリュフォーゴダールらとともに、ヌーベルバーグ中心人物の一人となる。他に「海辺のポーリーヌ」「緑の光線」「友だちの恋人」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロメール」の意味・わかりやすい解説

ロメール
ろめーる
Eric Rohmer
(1920―2010)

フランスの映画監督、作家。チュール生まれ(ナンシー生まれとする説もある)。本名はジャン・マリー・モーリス・シュレールJean-Marie Maurice Scherer。1942年からナンシーのリセで文学の講師となり、1946年にはジルベール・コルディエGilbert Cordierの筆名で小説『エリザベートElizabethを上梓。1948年よりパリのリセで古典文学を教えるかたわら、モーリス・シュレール名で『ラ・ルビュ・デュ・シネマLa Revue du Cinémaや『レ・タン・モデルヌ』などの雑誌で映画評の執筆を始め、1930年代のアメリカ映画を中心に雑多な映画を上映する「シネクラブ・デュ・カルチエ・ラタン」を主宰。1950年に処女短編映画『ある悪党の日記』を監督。このころ知り合ったジャン・リュック・ゴダールやジャック・リベットJacques Rivette(1928―2016)らと刊行したクラブの会報『ガゼット・デュ・シネマ』Gazette du Cinémaは半年で廃刊となったが、しばらくして、アンドレ・バザンらが1951年に発刊した『カイエ・デュ・シネマ』Cahiers du Cinémaの同人に前述のゴダールやリベットら若年の同志たちと名を連ね、エリック・ロメールと名のるようになる。同誌をおもな舞台に評論を発表し、当時はアメリカの職人監督とみなされていたハワード・ホークスやアルフレッド・ヒッチコックといった監督たちを「作家」として評価するなど、ヌーベル・バーグの礎(いしずえ)となる「作家主義」理論(集団的な映画製作の過程において、監督を中心に置き、作曲家や小説家同様に、「作家」として見なす立場)立ち上げの中心となり、ヌーベル・バーグ全盛期の1957年から1963年にかけて『カイエ・デュ・シネマ』の編集長を務めた。

 1959年、予期せぬ形で浮浪者として真夏のパリをさまよう事態に陥った男を主人公とする最初の長編劇映画『獅子座』を製作(公開は1963年)。1962年からは、短編『モンソーのパン屋の娘』に始まる「六つの教訓物語」シリーズに着手する一方、1963年からテレビの教育シリーズ番組を撮り始める。ロメールのフィルモグラフィーにおいて、長いスパンにわたる連作群が特徴的だが、嚆矢(こうし)となる「六つの教訓物語」からは、ベルリン国際映画祭審査員特別賞を受けた『コレクションする女』(1967)、アカデミー外国語映画賞にノミネートされた『モード家の一夜』(1969)、ルイ・デリュック賞を受けた『クレールの膝』(1970)など、多くのロメール初期の傑作が生まれ、それらの小説版である短編集も1974年に出版された(邦訳『六つの本心の話』Six contes moraux)。

 1971年からパリ第一大学で映画史の講義を始め、1977年に学位論文であった『ムルナウの「ファウスト」における空間の組織化』L'Organisation de l'espace dans le Faust de Murnauを刊行。1984年には、1940年代末から書きためられた映画関連の文章を『美の味わい』Le goût de la beautéにまとめている。

 1975年に初の歴史映画『O侯爵夫人』を発表し、カンヌ国際映画祭審査員特別賞を獲得するなど成功を収めると、『飛行士の妻』(1980)に始まる6編からなる「喜劇と格言劇」シリーズに着手。第三作『海辺のポーリーヌ』(1983)でベルリン国際映画祭監督賞、ドキュメンタリー的手法を導入して16ミリで撮影された若々しい第五作『緑の光線』(1986)でベネチア国際映画祭金獅子賞に輝く。ブルジョア的な価値観に縛られた男性が複数の女性の間で揺れる1960年代から1970年代の連作に対し、若い世代の女性たちのとりとめのない日常や会話に焦点をあてた1980年代の連作は、さらに『春のソナタ』(1990)から『恋の秋』(1998)へと至る「四季の物語」シリーズに継承され、その完結後も、フランス革命後の混乱状態にあったパリを生きたイギリス人女性を主人公とする『グレースと公爵』(2001)を発表。デジタル・テクノロジーを大胆に導入しつつ、ハリウッド的な使用法や大作志向から明確に袂(たもと)を分かつ絵画的、反自然主義的な使用法でも注目を集めた。

[北小路隆志]

資料 監督作品一覧

ある悪党の日記 Journal d'un scélérat(1950)
獅子座 Le signe du lion(1959)
モンソーのパン屋の女の子 La boulangère de Monceau(1963)
シュザンヌの生き方 La carrière de Suzanne(1963)
パリところどころ~「エトワール広場」 Paris vu par... - Place de l'Étoile(1965)
コレクションする女 La collectionneuse(1967)
モード家の一夜 Ma nuit chez Maud(1969)
クレールの膝(ひざ) Le genou de Claire(1970)
愛の昼下がり L'amour l'après-midi(1972)
O侯爵夫人 Die Marquise von O...(1975)
聖杯伝説 Perceval le Gallois(1978)
飛行士の妻 La femme de l'aviateur(1980)
美しき結婚 Le beau mariage(1982)
海辺のポーリーヌ Pauline à la plage(1983)
満月の夜 Les nuits de la pleine lune(1984)
緑の光線 Le rayon vert(1986)
レネットとミラベル 四つの冒険 Quatre aventures de Reinette et Mirabelle(1986)
友だちの恋人 L'ami de mon amie(1987)
春のソナタ Conte de printemps(1990)
冬物語 Conte d'hiver(1991)
木と市長と文化会館 または七つの偶然 L'arbre, le maire et la médiathèque(1992)
パリのランデブー Les rendez-vous de Paris(1994)
夏物語 Conte d'été(1996)
恋の秋 Conte d'automn(1998)
グレースと公爵 L'anglaise et le duc(2001)
三重スパイ Triple agent(2003)
我が至上の愛 ~アストレとセラドン~ Les amours d'Astrée et de Céladon(2007)

『梅本洋一・武田潔訳『美の味わい』(1988・勁草書房)』『小川功編「特集エリック・ロメール」(『WAVE35』1992・ペヨトル工房)』『細川晋訳『六つの本心の話』(1996・早川書房)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ロメール」の意味・わかりやすい解説

ロメール
Rohmer, Eric

[生]1920.4.4. ナンシー
[没]2010.1.11. パリ
フランスの映画監督,著述家。本名 Jean-Marie-Maurice Scherer。男女の愛の情熱や憧れを繊細に観察して描き,高く評価された。歴史学の学位を取得して短期間教職につき,1940年代半ばに文筆生活を開始した。1950年にフランソア・トリュフォー,ジャン=リュック・ゴダール,ジャック・リベットとともに機関誌『ラ・ガゼット・デュ・シネマ』La Gazette du cinémaの創刊に参加,1957~63年ヌーベルバーグの映画評論誌『カイエ・デュ・シネマ』Cahiers du cinémaの編集長を務めた。1959年に初の長編映画『獅子座』Le Signe du lionを監督。映画「六つの教訓物語」シリーズの,『コレクションする女』La Collectionneuse(1966),『モード家の一夜』Ma Nuit chez Maud(1968),『クレールの膝』Le Genou de Claire(1970)が高い評価を得た。『モード家の一夜』はアカデミー賞外国語映画賞と脚本賞の候補になった。『O侯爵夫人』Die Marquise von O(1976)でカンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ,『緑の光線』Le Rayon vert(1985)でベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。『我が至上の愛 アストレとセラドン』Les Amours d'Astrée et de Céladon(2007)が遺作となった。

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百科事典マイペディア 「ロメール」の意味・わかりやすい解説

ロメール

フランスの映画監督。ナンシー生れ。ヌーベル・バーグの作家の一人。《カイエ・デュ・シネマ》誌などで編集・執筆を手がける一方,リセの古典教師を務める。長編第1作はバカンス中のパリを舞台にした《獅子座》(1959年)。1960年代から1970年代にかけて監督した〈六つの教訓話〉の第3話である《モード家の一夜》(1968年)で評価を確立する。〈喜劇と格言劇〉シリーズの一つ《海辺のポーリーヌ》(1983年)でベルリン映画祭監督賞を受賞。古典文学の教養に裏打ちされた台詞と,官能的でみずみずしい映像によって,フランスの男女の日常を描く作品が多い。他に《クレールの膝》(1970年),《満月の夜》(1984年),ベネチア映画祭金獅子賞を受賞した《緑の光線》(1986年),《友だちの恋人》(1987年),《春のソナタ》(1989年)などがある。
→関連項目シャブロル

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