EBM 正しい治療がわかる本 「トリコモナス腟炎」の解説
トリコモナス腟炎
●おもな症状と経過
トリコモナス腟炎(ちつえん)は性感染症の一種で、トリコモナス原虫(げんちゅう)が腟内に感染しておこる病気です。悪臭の強い、泡状の黄色いおりものがみられ、外陰部(がいいんぶ)にかゆみを伴います。約10~20パーセントが症状のない無症候性感染であるともいわれています。
ひどくなると、外陰部がただれて、患部が熱くなったり、痛くなったりします。
また、性交渉のときに痛みや少量の出血がおこったり、膀胱炎(ぼうこうえん)のように排尿時に痛みを感じたりすることもあります。ちなみに男性でもトリコモナス原虫が性器や膀胱に感染しますが、通常症状はほとんどみられず、症状のないまま感染していることが少なくありません。
くり返し再発する「ピンポン感染」を予防するために、女性が治療を始めたら、性的パートナーの男性も検査の結果にかかわらず、早期に治療を始めることが必要です。
●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
トリコモナス原虫という寄生虫が原因となります。性交渉での感染がもっとも多い感染経路と考えられますが、トリコモナス原虫は宿主(しゅくしゅ)から離れても水分のあるところではしばらく生きていることができます。そのため、性交渉以外にも、まれに、公衆浴場や温泉、トイレの便座、手指などから感染することもあり、性交渉が一度もない人や子どもでも発病する可能性はあります。
家族内で感染者がでた場合は、幼児への感染を予防するため、感染者の入浴は最後にする、下着の洗濯は別に行うなどの配慮が必要です。
●病気の特徴
症状の現れない不顕性感染(ふけんせいかんせん)も多く、子宮がん検診や尿検査で、健康な女性に偶然トリコモナス原虫が見つかることもあります。
また、治療後にトリコモナス原虫が完全に消えたことを確認しなければ、再発の可能性があります。
よく行われている治療とケアをEBMでチェック
[治療とケア]不特定多数との性交渉は避ける
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 臨床研究によって、複数の性的パートナーがいる場合は、トリコモナス腟炎にかかりやすくなることが確認されています。(1)
[治療とケア]原因微生物に有効な薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 非常に信頼性の高い臨床研究によって、トリコモナス腟炎に対する内服薬メトロニダゾールによって患者さんの85~90パーセントが治ることが確認されています。(2)~(6)
[治療とケア]性的パートナーも治療を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 信頼性の高い臨床研究によって、患者さんだけでなく性的パートナーを同時に治療すると再感染までの期間を延長させるということが確認されています。(3)
よく使われている薬をEBMでチェック
[薬用途]抗トリコモナス薬
[薬名]アスゾール/フラジール内服錠(メトロニダゾール)(2)(4)(5)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]フラジール腟錠(メトロニダゾール)(2)(4)(5)
[評価]☆☆
[薬名]チニダゾール錠(チニダゾール)(4)(5)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 非常に信頼性の高い臨床研究によって、トリコモナス腟炎に対する内服薬メトロニダゾールによって患者さんの85~90パーセントが治ることが確認されています。メトロニダゾールには、内服薬と腟内に入れる錠剤の2種類がありますが、内服薬のほうが腟内に入れる錠剤より効果がすぐれていると報告されています。
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
感染がわかったら、早期に治療を開始する
非常に信頼性の高い臨床研究によって、アスゾール/フラジール内服錠(メトロニダゾール)によって85~90パーセントの患者さんが治癒できると確認されています。
外国ではメトロニダゾールやチニダゾールを2グラム(250ミリグラムの錠剤8錠)を1回で服用、あるいは500ミリグラムを1日2回7日間服用する、などの方法で治療していますが、日本では副作用の観点から、250ミリグラムを1日2回7~10日間服用する、という治療が一般的です。メトロニダゾールには、内服薬と腟内に入れる錠剤の2種類がありますが、経口内服薬(全身投与)に比べると腟錠の効果は明らかに劣ると考えられています。とくに子宮頸管(けいかん)や尿道に感染している場合には全身投与が有効です。(4)(5)
メトロニダゾールなどの薬剤内服中の飲酒により、腹痛、嘔吐(おうと)、潮紅(ちょうこう)などのアンタビュース様作用(お酒に酔ったような作用)が現れることがあるので、投与中、投与後3日間の飲酒は避けるほうがよいでしょう。(6)
治療はパートナーも同時に行う
トリコモナス原虫は男性にも感染しますが、症状がないという特徴があります。女性の感染が明らかになり、治療を始めたら、必ず性的パートナーも治療を始める必要があります。男性は女性に比べ、トリコモナス原虫の検出が困難であるため、パートナーが陰性と判定されることがあり、必ずしもパートナーの検査は必要ではありません。(6)
また、患者さんが医師の指示通りに薬を服用しないことが病気が治らない最大の理由です。完全に治癒しないと、性交渉で感染がさらに拡大していくため、治療後は検査して治癒したことを確認してもらう必要があります。
家族から感染者がでたら、ほかの家族への感染を予防する
まれに、浴槽、トイレの便座、手指などから感染することもあります。家族から感染者がでた場合は、幼児への感染を予防するため、感染者の入浴は最後にする、下着の洗濯は別に行うなどの配慮が必要です。
(1)Zhang ZF. Epidemiology of trichomonas vaginalis. A prospective study in China. Sex Transm Dis. 1996;23:415-424.
(2)National guideline for the management of bacterial vaginosis. Clinical Effectiveness Group (Association of Genitourinary Medicine and the Medical Society for the Study of Venereal Diseases). Sex Transm Infect. 1999;75(Suppl 1):S16-S18.
(3)Forna F, Gulmezoglu AM. Interventions for treating trichomoniasis in women. Cochrane Database Syst Rev. 2000;(3):CD000218.
(4)CDC. Sexually transmitted diseases treatment guidelines, 2010. MMWR Recommendations and Reports. 2010;59 (RR-12):58-61.
(5)CDC. STD treatment guidelines, trichomonas, 2015. http://www.cdc.gov/std/tg2015/trichomoniasis.htm
(6)日本性感染症学会編. 性感染症診断・治療ガイドライン 2011, 腟トリコモナス症.日性感染症会誌. 2011;22(suppl):77-79.
出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報