トリコモナス(読み)とりこもなす

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリコモナス」の意味・わかりやすい解説

トリコモナス
とりこもなす

肉質鞭毛(べんもう)虫門鞭毛虫亜門動物性鞭毛虫綱トリコモナス目に属する1属Trichomonas総称で、すべて寄生性の単細胞動物。体長5~20マイクロメートル。卵形で前端に4本の鞭毛をもち、別の1本は後方に伸びて後鞭毛(こうべんもう)となるが、これと本体の間には波動膜が張られている。体中央部には前端から後端に達する軸桿(じくかん)という名の骨格様構造がある。また1個の核が体前方に位置している。縦割り二分裂で増殖し、耐久性の嚢子(のうし)をつくることはない。ヒトの泌尿生殖器系に炎症をおこす腟トリコモナス(ちつとりこもなす)T. vaginalis、ヒトの口腔(こうくう)に寄生しているが非病原性と思われる口腔トリコモナスT. tenax、多くの鳥類の口腔や食道に寄生して上部消化管その他に病変をおこすハトトリコモナスT. gallinaeなどが知られている。かつては、ヒトその他の動物の腸管に寄生する腸トリコモナスや、ウシ流産の病因となるウシ胎仔トリコモナス(たいじとりこもなす)は、本属に入れられていたが、構造や寄生部位などから、現在では別属に分類されている。すなわち、前者Pentatrichomonas属に、後者Tritrichomonas属に入れられた。近年、本属の原虫無菌培養が可能となって各種の研究が進展している。病原性の種に対し抗トリコモナス剤「メトロニダゾール」「チニダゾール」「トリコマイシン」などが治療剤として有効である。

小山 力]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トリコモナス」の意味・わかりやすい解説

トリコモナス
Trichomonas

原生生物界トリコモナス科トリコモナス属に含まれる種類の総称で,体長 0.01~0.04mm。体は卵形で,前端に 3~5本の鞭毛をもち,ほかの 1本は後方に伸びて波動膜をつくっている。核は 1個。約 100種が知られていて,ヒトをはじめウシ,ハト,カエルナメクジなど 200種以上もの動物に寄生している。ヒトの場合,おもに女性の腟内に寄生する腟トリコモナス T. vaginalis が有名である。

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