改訂新版 世界大百科事典 「ナナイ族」の意味・わかりやすい解説
ナナイ族 (ナナイぞく)
Nanaitsy
アムール川中流からウスリー川,松花江にかけての原住民で,この地域は今日ロシア連邦のハバロフスク州,沿海州,中国領の黒竜江省にまたがる。ナナイは自称で,かつてはゴリドGol'dyと呼ばれた。中国の史籍では〈赫哲〉として,今日ではホジェンの名で知られる。人口はロシア領で1万2000弱(1989),中国領で4200余(1990)。ナナイ語はツングース・満州語派に属し,隣接するウリチ,オロチ,ウデヘ,オロッコ各族の言語と一グループを構成する。生業や文化の面でもこれらの諸族に共通のいわば〈沿アムール文化〉をもつ。すなわち,川岸や中島での定住集落,サケ・マス漁を中心とする狩漁採集経済,干魚(ユッコラ)を主食とする魚食生活,丸木舟や犬ぞり,夏の家と冬の家(竪穴住居),氏族(ハラ)組織,アニミズムとシャマニズム,熊と虎の神聖化,射日神話などである。また,ナナイ族では全体として中国文化の影響が認められ,とくに南部では農業も営まれた。それぞれソ連や中国の社会主義体制下で伝統的な生活や文化は著しく変貌した。
執筆者:荻原 真子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報