日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
プレストレストコンクリート構造
ぷれすとれすとこんくりーとこうぞう
コンクリートは圧縮応力に対しては強いが、引張り応力に対してはきわめて弱い。そこで、コンクリート部材の引張り応力の働く部分に、あらかじめ圧縮応力(プレストレス)を与えておくと、引張りに耐える範囲が大幅に拡大され、この欠点を改善することができる。このようなくふうを施したコンクリート部材のことをプレストレストコンクリート(略称PC)という。
[六車 煕]
製造方法
プレストレスは、PC鋼材とよばれる高強度の鋼線、鋼撚(よ)り線(ストランド)、鋼棒などを緊張し、コンクリート部材端面に定着することによって与えられる。 は部材の代表的製造方法の一つであるプレテンション法を示したものである。これは工場でのプレキャスト部材の製造に用いられる方法で、堅固な支持台(プレテンションベッド)にPC鋼材をあらかじめ緊張・定着しておき、その周りに型枠を組んでコンクリートを打ち、硬化後にPC鋼材の引張り力を緩めて、コンクリートとPC鋼材間の付着力によってプレストレスが導入される。他の代表的方法はポストテンション法である。これは製品として運搬が困難な大形部材や現場打ちコンクリートにプレストレスを与える方法で、鞘(さや)(シース)を着せたPC鋼材を型枠中に配置してコンクリートを打設し、硬化後、コンクリートを受け台としてPC鋼材を緊張・定着してプレストレスを導入する。導入後、ただちに鞘の中の空隙(くうげき)にモルタル等を圧入(グラウト)する。これは、PC鋼材の防錆(ぼうせい)およびコンクリート本体との間に付着を与えるために行うものである。最近はPC鋼材表面に防錆材を塗布してプラスチックの鞘で密封した鋼材(アンボンドPC鋼材)を使用するアンボンドポストテンション法も開発され、グラウトを必要としないことから注目を集めている。
[六車 煕]
特徴と応用
プレストレストコンクリートは、橋梁(きょうりょう)の主桁(しゅげた)、建築物の梁(はり)、床スラブのような曲げ応力の作用する部材(曲げ材)に利用すると、その特徴が発揮される。すなわち、曲げ材の引張りの働く部分にプレストレスを与えると、コンクリートの全断面が圧縮に対しても引張りに対しても有効に働くようになり、通常の使用状態ではひび割れがまったく発生しない部材ができる。このことは、高強度で密実なコンクリートの使用と相まって、高品質で耐久性に富む構造物が得られる要因となっている。また、鉄筋コンクリート部材よりも部材断面を著しく小さくできることも特徴の一つであり、構造物の軽量化に役だつ。大スパン構造にもきわめて適しており、建築物で梁スパン50メートル、橋梁主桁ではスパン250メートルを超える長大橋梁が世界各国で多数建設されている。
タンクなどの円形構造物にもプレストレスの技術が応用され、また、鉄筋コンクリート梁、床スラブ、壁にわずかなプレストレスを与えることによって、ひび割れ開口幅を制御するプレストレスト鉄筋コンクリート構造の技術、組立て構造におけるプレキャスト部材接合部にプレストレスを与えることによって、現場一体式構造と同等の一体性をもった構造物とする技術など、種々のプレストレス応用技術も数多く開発されている。
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