コンクリート(読み)こんくりーと(英語表記)concrete

翻訳|concrete

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コンクリート」の意味・わかりやすい解説

コンクリート
こんくりーと
concrete

土木・建築材料の一つ。広義には骨材(細骨材、粗骨材)をペースト状の無機あるいは有機の結合材で結合固化したものをいうが、ここでは、ポルトランドセメント混合セメントなどと水の混合物(セメントペースト)の水和反応に基づく硬化作用を利用して、骨材を結合固化したものをいう。

[笠井芳夫・西岡思郎]

分類

コンクリートの分類は多様であるが、おもなものをあげると次のようになる。

(1)骨材の比重による分類 重量コンクリート、普通コンクリート(普通の骨材を用いたコンクリート)、軽量骨材コンクリートなど。

(2)コンクリートの品質の級による分類 高級コンクリート、常用コンクリート、簡易コンクリート。

(3)混和材料による分類 普通コンクリート(混和材料を用いないコンクリート)、AEコンクリート、流動化コンクリート(流動化剤を用いて施工性をよくしたコンクリート)、気泡コンクリート発泡剤を用いて多量の気泡を混入し、軽量としたコンクリート)、フライアッシュコンクリート(火力発電所における微粉石炭の燃焼によって生ずる良質な微粉灰を混入したコンクリート)、および高炉セメントコンクリートなど。

(4)施工方法による分類 プレキャストコンクリートプレストレストコンクリートプレパックドコンクリート、ポンプコンクリート(コンクリートポンプを用いて輸送するコンクリート)、吹き付けコンクリート(吹き付けガンを用いて直接岩場やトンネルの岩盤などに吹き付けるコンクリート)、真空コンクリート(打ち込み直後のコンクリートの上面に気密マットを置き、マットとコンクリート面との間を真空ポンプで減圧し、脱水と同時に大気圧を作用させて硬化を促進し、強度を増進させたコンクリート)、水中(施工)コンクリートなど。

(5)施工時期による分類 寒中コンクリート暑中コンクリート

(6)用途による分類 構造用コンクリート(構造物に作用する荷重を支持するコンクリート)、舗装用コンクリート(道路舗装用のコンクリート)、ダム用コンクリート、遮蔽(しゃへい)用コンクリート(放射線遮蔽用重量コンクリート)など。

[笠井芳夫・西岡思郎]

歴史

コンクリートはローマ時代に火山灰と石灰石とを用いてつくられたものが始まりとされている。近代になって1824年にポルトランドセメントが発明された。その後1867年にフランスで金網によって補強されたコンクリートが発明され、次にドイツを中心に鉄筋コンクリートの開発が進められた。20世紀に入ってからヨーロッパ、アメリカ、日本において大発展を遂げた。

 日本では1875年(明治8)セメントの製造に成功した。大型の防波堤工事(無筋コンクリート)などは明治20年代の初期から始まっている。日本における最初の鉄筋コンクリート構造物は1903年(明治36)京都山科(やましな)の琵琶湖(びわこ)疎水運河に架けられた橋といわれている。建築物としては1904年、佐世保(させぼ)港ドックの付属ポンプ所およびその煙突がつくられている。本格的な近代建築は1911年にできた三井物産横浜支店1号館であった。その後、関東大震災を契機として鉄筋コンクリート造鉄骨鉄筋コンクリート造の耐震・耐火性が高く評価され、大正末期以降、都市の不燃化の主役として登場した。

 今日では、土木用としてダム、高速道路、橋梁(きょうりょう)、防波堤などに、建築物としては中高層アパート、事務所や超高層建築の床版(軽量骨材コンクリート)などとして用いられている。

[笠井芳夫]

調合(配合)

コンクリートの調合(配合)とは、セメント、水、骨材(通常は砂、砂利)の割合をいい、通常1立方メートルのコンクリートをつくるのに必要な単位重量で表す。セメントの単位重量は300キログラムを標準とするが、250~450キログラムくらいの範囲をとる。水の重量をセメントの重量で割った値(水/セメント)を水セメント比といい、コンクリートの強度と関係が深く、水セメント比の小さなコンクリートほど強度は大きくなり、この値は40~65%程度をとる。単位水量が多いほどコンクリートは軟らかくなり流れやすくなるが、同一単位セメント量では強度が小さくなり、かつ乾燥に伴う収縮が大きくなるので、できるだけ単位水量を少なくし、硬練りコンクリートを用いるのがよい。

[笠井芳夫・西岡思郎]

フレッシュコンクリートの性質

コンクリートの練り混ぜから打ち込み終了までの性質は、コンクリートの施工性、運搬・打ち込み中における分離や硬化後の品質、耐久性などと関係が深い。フレッシュコンクリート(まだ固まらないコンクリート)の性質のうち、ワーカビリチーworkability(施工性)は打ち込み作業の難易の程度を表すものである。通常、円錐(えんすい)台状の底のないコーンを平板の上に置いてコンクリートを詰め、静かに引き抜いて、その頂面の下がりを計測し、これをスランプslump値とよぶ。この値が大きいほど軟らかく、小さいほど硬いコンクリートである。単位水量を増すとスランプは大きくなり、コンクリートの打ち込みは容易となるが、ブリージングbleeding(コンクリート打ち込み後、水が分離して上部に浮かんでくる現象)が多くなったり、乾燥収縮が大きくなったりするので、施工が可能な範囲で、できるだけスランプの小さい硬練りコンクリートとするのが望ましい。このほかコンクリートの空気量の大小、粘性、分離性の大小などもたいせつな性状である。

[笠井芳夫・西岡思郎]

硬化コンクリートの性質

硬化コンクリートの性質は物理的性質と化学的性質とに分けられる。物理的性質は表1に示すような一般的性質(比重、熱的性質、吸水率)および表2に示すような力学的性質(圧縮強度、曲げ強度、剪断(せんだん)強度、付着強度、ヤング係数、ポアソン数)などがある。とくにコンクリートの圧縮強度は設計上重要な値である。また一般に圧縮強度以外の力学的性質は圧縮強度とほぼ比例関係にある。圧縮強度は水セメント比によって支配され、水セメント比が小さいほど強度は大きくなる。コンクリートの圧縮応力度とひずみ度との関係はに示すような形状をとり、この曲線の勾配(こうばい)をヤング係数という。ヤング係数の大きいコンクリートほど、同一ひずみを与えたとき大きな応力を発生する。

[笠井芳夫]

コンクリートの化学的性質

コンクリートはセメントの水和によって多量の水酸化カルシウムを生成するため、強アルカリ性(pH12~13)を示す。コンクリート中の鉄筋はこのアルカリ性によって保護され、通常錆(さ)びることはないが、空気中の炭酸ガスと水酸化カルシウムとが反応して炭酸カルシウムに変わるとアルカリ性が失われる。この現象を中性化とよぶ。中性化すると鉄筋が錆び始めるので、中性化が鉄筋に到達するまでの期間を鉄筋コンクリートの寿命と考えている。このほか、セメントは無機、有機の酸類によって侵される。とくに硫化物を含む温泉地帯ではセメントが溶解して激しい侵食を受けるので注意を要する。

[笠井芳夫]

『藤原忠司他編著『コンクリートのはなし』1・2(1993・技報堂出版)』『小林一輔著『コンクリートの文明誌』(2004・岩波書店)』『依田彰彦著『コンクリート技術用語辞典』(2007・彰国社)』『西林新蔵・小柳洽編著『コンクリート工学ハンドブック』(2009・朝倉書店)』『小林一輔著『コンクリートが危ない』(岩波新書)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コンクリート」の意味・わかりやすい解説

コンクリート
concrete

セメントを水と砂,砂利あるいは砕石と混ぜ合せて凝固させる土木建築用材料。すでに古代ローマ人は,火山灰と水和石灰を混合したセメントの一種 (スラッグ) を,煉瓦や石材とともに使用していた。水によって硬化する水硬セメントは,1756年頃イギリスで最初につくられ,今日のようなポルトランドセメントは,やはりイギリスで 19世紀の初めにつくられた。凝固したコンクリートは圧縮に強く耐火にすぐれているが,引張りに弱い。この欠点を補うため,鉄棒や金網を骨組みに用いる方法が鉄筋コンクリートである。鉄筋コンクリートは,フランスの造園家 J.モニエによるベルサイユ宮殿のオランジュリーの花壇で使われ (1849) ,1850年 F.コワニエによって初めて建物に利用された。現在では建築部材を前もって工場で成型するプレキャストコンクリートが多くつくられている。

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